吸収式冷温水機とは?
ガスや排熱を利用して冷水を作る空調熱源機器

【超解説】とても簡単に言うと何か?

エアコンのように電気を使って冷やすのではなく、「ガスの炎」や「工場から出る熱い蒸気」を利用して「冷たい水」を作り出す、巨大な空調マシンです。「注射の前にアルコールを塗るとスースー冷たく感じる」のと同じ原理を使い、フロンガスを一切使わずに夏の冷房をまかなうエコな設備です。

1. 基本概要

そもそも何か

吸収式冷温水機(きゅうしゅうしきれいおんすいき / Absorption Chiller-Heater)は、大規模施設の空調機(AHUやFCU)へ送るための「冷水(約7℃)」や「温水(約60℃)」を作る熱源機器です。
家庭用エアコンなどで使われる「フロンガス」と「電気で動く圧縮機」の代わりに、「水(冷媒)」「臭化リチウム水溶液(吸収液)」を用い、「熱エネルギー(都市ガスや蒸気)」を駆動源として冷房・暖房を行うのが最大の特徴です。

なぜ必要なのか(導入される理由)

真夏の昼間、日本中のエアコンが一斉に稼働すると、電力不足(ピーク需要)に陥る危険があります。そこで、電力を大量に消費する「大きなコンプレッサー」を持たない吸収式を導入し、代わりに「ガス」を燃やして冷房することで、電力会社からの受電設備(キュービクル)を小さく抑え、国の社会課題である「夏の電力ピークカット」に大きく貢献できるからです。

2. 構造や原理(どうやって熱から冷気を作るのか)

注射の前に塗るアルコールと同じ「液体が蒸発する時に周りの熱を奪う(気化熱)」という原理を利用していますが、これを連続して行うために4つの部屋(サイクル)を持っています。

【吸収式の魔法の4工程】

① 蒸発器(冷やす場所): ほぼ真空状態の部屋。真空の中では水はたったの約4℃で沸騰します。ここに水をスプレーすると一瞬で蒸発し、その気化熱でパイプの中の空調用水を7℃に冷やします(これが各部屋へ行く冷水)。
② 吸収器(吸い取る場所): 水が蒸発して充満した水蒸気を、「臭化リチウム(強烈に水を吸い取る塩水)」に吸わせて液体に戻します。
③ 再生器(熱する場所・ここがカギ!): 水を吸い取って薄まった塩水を、ガスバーナーの炎や工場の蒸気でグツグツ煮込みます。すると水分だけが蒸発し、再び濃い塩水に戻ります。
④ 凝縮器(戻す場所): 煮込まれて出た水蒸気を、屋上のクーリングタワー(冷却塔)から来る水で冷やし、元の水滴に戻します。これが再び①に戻ります。

※暖房時は、ここで作ったお湯をそのまま空調に使うため冷房時より非常にシンプルな動作になります。

3. 種類と特徴(エネルギー源による違い)

どのように「塩水を煮込むか(熱源)」によって3種類に分類されます。

① ガス直焚(じかだき)吸収式冷温水機

機械の中に直接ガスバーナーが組み込まれており、都市ガスやLPガスを燃やして加熱します。単独で動かすことができ、ビルや病院・ホテルなどで最も導入件数が多いスタンダートなタイプです。

② 蒸気(または高温水)吸収式冷凍機

バーナーの代わりに、コージェネレーションシステム(CGS)やゴミ焼却場、工場プロセスから出てくる「高温の蒸気」や「お湯」の熱を利用して加熱します。「捨てるはずだった排熱」だけで冷望ができるため、極めて環境負荷が低い究極のエコシステムです。

③ 排ガス投入型吸収式冷温水機(ジェネリンク等)

ガスエンジンの排気ガスを直接機械に投入して加熱源とする、CGS構成専用の特殊なタイプです。排熱が足りない時だけ補助でガスバーナーを焚くハイブリッド運転が可能です。

4. 主に使用されている場所

大量の冷気・暖気が必要となる大規模空間を中心に、様々な場所で活躍しています。

  • ターミナル駅・地下街: 受電電力を抑えるため、大規模な地域冷暖房センターの主力設備として数十機並べられています。
  • 総合病院・大型ホテル: CGS(発電設備)とセットで導入され、排熱を利用して24時間空調を賄っています。
  • 大型工場・ゴミ処理場: 工場内で当たり前のように発生する「蒸気の余り」を冷房に変換し、従業員の労働環境を改善しています。

5. メリット・デメリット

メリット(ピークカットとフロンレス)

最大のメリットは「電気をほとんど使わない(ポンプの動力程度)」ことです。これにより真夏の電力ピークを切り崩すことができ、電気の基本料金が劇的に下がります。また、冷媒に「ただの水」を使用しているため、オゾン層破壊や地球温暖化係数ゼロの「完全ノンフロン機器」であり、フロン排出抑制法による面倒な点検義務の対象外となります。

デメリット(場所を取る・冷却水が必要)

電気モーターで動く圧縮式チラーに比べると、機器のサイズが約2倍ほど大きく、広大な重荷重の機械室が必要です。また、大量に熱を大気へ捨てる必要があるため、巨大な「クーリングタワー(冷却塔)」と冷却水配管を絶対にセットで構築しなければならないのが弱点です。

6. コスト・価格の目安

電気式チラーよりも機械構造が複雑なため、初期投資は割高になります。

おおよその相場(イニシャルコスト)

  • 中規模(約100USRT / 350kW級): 約2,000万円〜3,000万円
  • 大規模(約500USRT / 1750kW級): 約6,000万円〜1億円
  • 更新(入れ替え)工事費: 機器の分割搬入・現場溶接組み立てが必要になることが多く、工事費だけで数千万円追加されることが多い。

合計目安: 本体だけでは冷房できません。冷却塔(クーリングタワー)、冷却水ポンプ、冷温水ポンプ、膨大なガス配管などを合わせると、空調熱源工事全体で億単位のビッグプロジェクトになります。

7. 更新周期と注意点・メンテナンス

更新周期(寿命は約15年〜20年)

法定耐用年数は15年です。機械の中は真空状態を維持し続ける必要があるため、経年劣化でどこかからパッキンの隙間を通り空気が入り込む(真空漏れ)と、水が低温で沸騰できなくなり、全く冷えなくなります。この「真空漏洩」の限界が概ね20年です。

絶対にやってはいけない管理(溶液の結晶化)

【NG事例】冷却水温度の管理を怠る

冬場や中間期にクーリングタワーからの水が冷たすぎると、機械の中の臭化リチウム水溶液が「過冷却」となり、塩が析出するのと同じように「結晶化(ガチガチに固まる)」してしまいます。一度結晶化すると配管が詰まり、機械が完全に停止・故障する最悪のトラブル(通称:お漏らし・結石)を引き起こします。

8. 関連機器・材料の紹介

吸収式冷温水機はこれらの機器と配管で繋がれ、「1つの大きな植物(プラント)」として機能します。

  • 冷却塔(クーリングタワー):
    吸収式に必須の相棒。塩水を煮込んで水に戻す際に出る「大量の熱」を奪って、建物の屋から空気中へ捨てる巨大な扇風機。
  • コージェネレーションシステム(CGS):
    蒸気吸収式や排ガス投入型吸収式の「熱源」となる親分。CGSが電気を作り、吸収式が冷房を作り出します。
  • 水処理装置:
    冷却水配管(鉄パイプ)と銅チューブが錆びて穴が開くのを防ぐため、防錆剤・スライム(藻)防止剤を自動注入する薬注装置が必須です。

9. 多角的なQ&A(20連発)

一般人(利用者・オーナー)目線

普通の電気エアコンと比べて電気代は安くなりますか?

電気代は劇的に(数十分の一)安くなりますが、代わりに「ガス代」または「蒸気代」がかかります。真夏の高額な電気料金システム(デマンド契約)を回避できるため、トータルの光熱費コストを抑える経営戦略として導入されます。

フロンガスを使っていないなら、オゾン層を壊さないのですか?

はい。冷媒として入っているのは「ただの水(H2O)」なので、万が一ガス漏れしても全く環境に害がありません。地球温暖化対策に貢献する設備として国から推奨されています。

ガスを燃やしているのに「冷える」のが不思議です。

ガスで直接空気を冷やすわけではありません。「機械の中に一度吸い込んだ『水』を、ガスでグツグツ煮込んで外に出す」という一連のサイクルを回すための「動力源」としてガスを使っています。「水を蒸発させて冷たい水を作る」のが本質です。

マンションには導入できないのですか?

機械が非常に大きく、また重荷重に耐える基礎や、屋上に巨大な冷却塔を置くスペース、専用の設備管理員が必要となるため、ごく一部の超高級タワーマンション等を除き、基本的にオフィス・商業・病院用です。

地震の時、火災にならないか心配です。

直焚き吸収式にはガスバーナーが付いていますが、感震器(地震センサー)が内蔵されており、震度5強などの揺れを感知すると一瞬でガスバルブ(緊急遮断弁)が閉じるため、火災の心配はありません。

職人(施工者)目線

搬入時の注意点は何ですか?

非常に重く(数トン〜十数トン)、重心も偏っているため玉掛け難易度が高いです。一番の注意点は、地下の搬入口に収まらない場合、「現場現地組み立て(ブロックで搬入して、地下で溶接して一つに組み上げる)」という特殊な手配が必要になることです。

配管の接続で「冷温水」「冷却水」を見分けるコツは?

一般的に、口径がより太い方が「冷却水配管」です。吸収式は大量の熱をクーリングタワーに捨てる必要があるため、建物を回る冷温水よりも、クーリングタワーを回る冷却水の方が極太の配管になります。

煙突の施工は電気ターボ冷凍機と何が違いますか?

電気で動くターボ冷凍機に煙突はありませんが、ガス直焚きの吸収式は「ボイラー」と同じなので、ステンレス製の耐熱・断熱煙突を屋上まで立ち上げる「煙道工事」が必須となります。

冷却水配管にストレーナーを入れる理由は?

クーリングタワーは外気を激しく吸い込むため、水に砂利や枯れ葉、虫などのゴミが大量に混入します。これが吸収式の内部の細い銅チューブ(伝熱管)に入るのを防ぐため、手前に必ずストレーナーを設置し定期清掃します。

真空引き(初期設定)作業とはなんですか?

機械の内部を絶対真空(0に近い気圧)にする作業です。真空ポンプを何時間も回して内部の空気を完全に抜き切らないと、水が4℃といった低温で蒸発(沸騰)してくれないため、冷房が機能しません。

施工管理者目線

電気の「ターボ冷凍機」と「吸収式冷温水機」はどちらを選ぶべきですか?

契約電力(デマンド)に余裕があれば効率(COP)が高い「ターボ冷凍機」、受電設備を小さくしたい、またはCGSの排熱を活かしたい場合は「吸収式」を選定します。最近の大型ビルでは、両方を組み合わせる「ベストミックス熱源」が主流です。

一重効用(単効用)と二重効用の違いは?

ガスを燃やして出た水蒸気の熱を、「もう一回別の部屋で再利用する」のが二重効用型です。燃料を約30%節約できるため、現在の直焚き吸収式のほとんどはこの二重効用(または高効率な三重効用)です。一重効用は低温の排温水しか利用できない工場排熱などで使われます。

ボイラー技士の資格は必要ですか?

不要です。「直焚きボイラー」のように火を扱いますが、内部が真空で大気圧以下であるため、労働安全衛生法上の「ボイラー」には該当しません。この「資格・免許不要」が日本で大普及した大きな理由です。

冷却水の水質管理計画はどう立てればいいですか?

水処理専門メーカー(クリタなど)を入れ、ブロー装置(濃縮した水を自動で捨てて新しい水を入れる)と薬液注入ポンプの設置を計画してください。怠ると銅チューブにスケールが付着し、1年で能力が激減します。

消防署への届出は何が必要ですか?

多量のガスを消費するため、火を使用する設備として消防署への「火気使用設備設置届」や、ガス事業者への届け出、また煙突(排気)があるため大気汚染防止法の届出など、電気チラーと比べて官公庁手続きが非常に多くなります。

設備管理者目線

日常点検では何を確認すれば良いですか?

「機内圧力(真空度)の監視」が至上命題です。不凝縮ガス(わずかに侵入した空気など)が溜まると圧力が上がり冷えなくなります。定期的に「抽気(ちゅうき)ポンプ」を回して、このガスを外に排出する作業が欠かせません。

「結晶化」してしまった!復旧方法は?

臭化リチウムの塩が詰まって機械が止まってしまった場合、「溶融運転(バーナーの熱を詰まったパイプに伝えて溶かす)」というベテランの特殊操作が必要です。最悪の場合、メーカーを呼んで外部からヒーターを当てて手作業で溶かす大手術になります。

冬場(暖房時)もクーリングタワーの水は使いますか?

使いません。暖房時は機械の中で燃やした「お湯」をそのまま各階に送るため、クーリングタワーへの排熱は発生しません。冬期は冷却塔の水を抜き、凍結破損を防ぐ措置をとります。

吸収液(臭化リチウム)は交換が必要ですか?

通常は交換しませんが、機械の内部が錆びると溶液に不純物が溶け込み、性能が落ちてきます。年に1回、メーカーによる「溶液分析(血液検査のようなもの)」を行い、アルカリ度調整剤などを添加して寿命を延ばします。

冷えが明らかに悪くなってきた原因は何ですか?

ほぼ確実に「伝熱管(チューブ)の汚れ(スケール)」か「真空漏れ」です。1〜2年に一度「チューブブラッシング(細いブラシで管の中を清掃する)」を行っていない場合は、汚れが原因です。それでも冷えないなら真空漏洩修理が必要です。