非常放送設備(非常・業務放送システム)とは?
火災時に音声メッセージで館内に避難を呼びかける放送設備
【超解説】とても簡単に言うと何か?
火災発生時にBGMを強制遮断し、避難を促す音声メッセージを建物全体に一斉放送する設備です。
1. 基本概要
そもそも何か
非常放送設備(ひじょうほうそうせつび)とは、多数の人が集まる
大規模な建築物において、火災発生時に音声アナウンスを通じて
避難を誘導するための、消防法で設置義務が定められた音響通報設備です。
非常ベル(自火報)との違いと存在意義
ジリリリという「非常ベル」だけでは、何階で火事なのか、本当に火事なのか
がわからず、群衆がパニックを起こして将棋倒しになる危険性がありました。
そこで、冷静な女性や男性の「アナウンス音声」で的確に逃げ道を
指示することで、群衆のパニックを抑え生存率を極限まで高めるためです。
2. 構造や原理
自火報盤との最強タッグ(連動起動)
非常放送のアンプは、必ず「自動火災報知設備の受信機」と通信線で
つながっています。感知器が火煙を見つけると、自火報盤から非常放送アンプへ
「3階で火事だ!」という信号が送られ、アンプが自動で電源を立ち上げて
3階と4階(直上階)のスピーカーだけに「火事です」の音声を流す仕組みです。
断線時・ショート時の完全防護回路
家庭用のオーディオアンプは、スピーカーの配線が1箇所でもショートすると
アンプ全体が壊れて音が鳴らなくなります。しかし非常放送アンプは、火災で
どこかのスピーカーが溶けてショートしても、その壊れた階の線だけを
一瞬で「物理的に切り離し(切り離し回路)」、他の階の放送を守り抜きます。
3. 素材・形状・規格
外観形状と素材
防災センター(管理室)に設置される巨大な「ラック型アンプ(鉄製のロッカー
のような棚にアンプやバッテリーが何段も積まれたもの)」と、
小さな学校やマンション用の「壁掛け型アンプ」の2種類があります。
必ず火災時に手動で割り込んで喋るための「マイク」が付いています。
日本消防検定協会のガチガチの認定品
普通のマイク付きアンプ(街宣車や運動会用)をポンと置いても消防検査は
通りません。法で定められた「蓄電池(停電しても数十時間は作動)」や
「火災時優先回路」などを備えた「認定マーク」付きの専用品のみが使えます。
4. 主に使用されている場所
使用される施設(設置義務の基準)
デパート等の不特定多数が集まる施設(特定小規模施設)や、
ホテル・病院等で「収容人員が一定数を超える」、あるいは
「11階以上の高層ビル(規模問わず全対象)」等において設置が義務です。
これがある建物では、あの「ジリリリという非常ベル」は免除(省略)されます。
音声が流れるスピーカーの場所
天井に埋め込まれている白い「天井埋め込み型スピーカー」や、
外に音が飛ぶ「ホーン型スピーカー」などです。
音圧条件として、10m離れた場所でも「L級(92dB以上)」や「M級」など、
非常にうるさくてハッキリと聞こえる音量が空間全体で確保されています。
5. メリット・デメリット
メリット(長所)
火災時以外は、アンプの「業務放送機能」を利用して、
店舗のBGM、閉店のホタルノヒカリ、迷子のお知らせ、社内のチャイムなど、
日常の超便利なインフラとして施設の中で100%フル活用できる点です。
デメリット(短所・弱点)
システムの規模と価格が「非常ベル」単体より遥かに巨大で高額になります。
また、内蔵のバッテリーやアンプ基板が経年劣化に弱く、定期メンテナンスを
怠ると、いざという時に音声が途切れ途切れになるなどの不具合を起こします。
6. コスト・価格の目安
導入や更新にかかる費用
TOA、パナソニック(Panasonic)、JVCケンウッド等の数社がシェアを
独占しており、アンプの「ワット(W)数:スピーカーを何個鳴らせるか」
によってラックの段数が激増し、価格が跳ね上がります。
おおよその相場(機器本体価格のみ)
- 壁掛け型(小規模アパート・店舗用): 約 30万円〜60万円
- 自立ラック型(中規模ビル・病院用): 約 150万円〜300万円
- 超大型ネットワーク放送システム(商業施設): 数千万円規模
合計目安: 天井のスピーカー1個(数千円)の機器代は安いですが、
数百のスピーカーを繋ぐケーブル配線工事費の合計は莫大になります。
7. 更新周期と注意点・絶対にやってはいけない悪い使用方法
更新周期(推奨交換時期)
電子基板のコンデンサ抜けや内蔵バッテリーの寿命のため、
メインのアンプラック部分は「約10年〜15年」でのリニューアルが必須です。
天井のスピーカー自体も、湿気等でコーン紙が破れるため定期交換が必要です。
絶対にやってはいけない悪い使用方法
「イベントで音質を良くしたいから」と、一般の方が非常放送の配線ルートの途中に
市販のオーディオアンプやボリュームコントローラーを無断で改造して
接続してしまう行為です。火災時の連動信号の電圧が狂い、放送が沈黙します。
悪い使用方法をするとどうなるか(末路)
いざ火事になった際、強制的に音をMAXにする「緊急割込信号」が働かず
「音楽が流れたまま誰も火事に気づかない」という最悪のサイレント火災が発生し、
逃げ遅れによる大惨事に直結します。
8. 関連機器・材料の紹介
非常放送と切っても切れない関係にあるメインのシステムです。
-
自動火災報知設備(受信機):
「何階で火事が起きたから放送して」という指示をアンプへ直接飛ばす親分です。
この2つの盤は必ず隣同士(あるいは一体型)で設置されます。
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煙感知器(光電式):
ここが拾った情報が受信機を経由し、瞬時に非常放送を立ち上げるトリガーとなります。
▶ 詳細記事はこちら
9. 多角的なQ&A(20連発)
デパートのBGMが急に切れて「プー、プー」と鳴りました。火事ですか?
火災感知器が作動した直後に鳴る「第一報の警戒音声」です。
「ただいま〇階の火災感知器が作動しました。確認しております」といった
事前の注意喚起の放送で、実際に火災と断定されると避難放送に切り替わります。
館内放送の音が突然マックスの爆音になってびっくりしました。
非常放送設備のテストや作動時には、「各部屋のボリュームツマミ
(アッテネーター)」の設定を全て自動で無視して、「強制で最大音量で鳴らす」
機能(3線式配線の機能)が働くように法律で決められているためです。
「ウ〜」というサイレンと、「ウ〜カンカン」の違いは何ですか?
「ウ〜」だけのサイレン音は、感知器が異常を検知した(警戒状態)というサイン。
「ウ〜カンカン、火事です!」は、明らかに炎が出ている発信機(押しボタン)が
押されたか、管理人が本当に火事だと全館に知らせている決定のサインです。
地震のときにも放送設備は働きますか?
地震計や緊急地震速報の端末と連動させるオプションを組んでいれば、
「緊急地震速報です、強い揺れに警戒してください」という音声が
火災時と同じ優先回路で自動的に全館に流れるようになっています。
停電したら館内放送はどうなりますか?
非常放送アンプのラックの一番下には「超巨大な蓄電池(バッテリー)」
が積まれており、そこから電力を供給して「最低10分間以上」は確実に
避難放送のマイクが行えるように完璧な停電対策がなされています。
スピーカーの結線の「N・R・C」の3線の意味を教えてください。
Cは共通線(コモン)、Nは一般放送線(ノーマル・ボリュームを通る)、
Rは非常放送線(レスキュー・ボリュームを無視してMAXで鳴る)の3本です。
アッテネータ(音量調整器)を付ける現場ではこの3線配線が命です。
天井裏で、アンプから来た太いケーブルとスピーカーの細い線をどう結線する?
基本的には「リングスリーブ等の圧着端子」で強力に結線し、絶縁等します。
差し込みコネクタは火災の熱で早期に溶けて抜け落ちやすいため、
防災用スピーカーの結線方法としては避けるべき(あるいは専用の耐熱型を使うべき)です。
数千W(ワット)の巨大な放送設備の場合、電線は太くするべき?
非常放送は家庭用の100Vシステムや4Ωではなく、「ハイインピーダンス(100V電圧伝送)」
という特殊な高電圧・低電流の伝送方式を行っているため、
何百個繋いでも1.2mmや2.0mmのAE線(耐熱電線)で遠くまで音が減衰せずに送れます。
アンプ結線で「シールド線」の片側だけをアースに落とすのはなぜ?
自火報盤からの微弱な信号線などがノイズを拾わないためです。
両端をアースに落とすと逆にループ電流が起きてノイズの発生源になるため、
「アンプ(盤)側の一点アース」が弱電工事の鉄則となります。
施工後、アンプに「断線」や「ショート」のランプが付きっぱなしです。
どこかでスピーカー線のC・R・Nのどれかがショートしているか、
アッテネータ(音量つまみ)の配線を逆につないでいる初歩的ミスです。
回路の抵抗値をテスター(インピーダンスメーター)
で1回線ずつ地道に測って犯人をあぶり出します。
非常ベルではなく、「あえて非常放送設備」を設計に入れる基準は何階?
規模に関わらず「地階を除く階数が11階以上」の建物と、「地下街」、
さらに収容人員が300人以上の劇場・デパート等では、
ベルではパニックを抑えきれないため「非常放送」の設置が義務になります。
自火報システムとの「連動」は誰の責任工事か揉めやすいですか?
非常に揉めやすいです。「盤間のケーブルを引くのは自火報屋か音響屋か」
「結線の端子は無電圧接点か有電圧か」など、仕様の事前すり合わせをしなかったため
消防検査の前日に「ベルは鳴るのに放送が立ち上がらない!」と地獄を見ます。
消防検査でスピーカーの「音圧測定」とは何をやりますか?
消防官が音量測定器(騒音計)を持ち、スピーカーから水平に数メートル
離れたポイントで実際に非常放送を鳴らし、規定のdB(デシベル)
の大きな音が空間全体にきちんと届いているかを実測チェックします。
防火戸やシャッターが降りた時の音への影響も考慮すべき?
はい。火災時にはシャッターが降りて空間が区切られるため、
その区切られた1つの区画ごとに「必ず1つ以上」のスピーカーが存在して音が聞こえるように
図面上で防火区画ごとの配置設計(網羅)をする必要があります。
非常放送用スピーカーは壁に付けても良いですか?
良いですが、高さ制限があります。
音声が遠くまで飛ぶように、必ず「床面から手すら届かないような高い位置
(基本は天井面だが、壁なら高い位置)」にしか設置してはいけません。
アンプのバッテリーは交換にいくらぐらいかかりますか?
内蔵される鉛蓄電池等のバッテリーは非常に高価な大型のものであり、
容量にもよりますが数万円から十万円近くします。法令で寿命(約4〜5年)での
定期交換が絶対義務として定められています。
館内放送のBGMの音量を場所ごとに毎日細かく変えたいのですが。
壁面にある「アッテネーター(音量調整つまみ)」を回して調整します。
これを0番(無音)に絞っていても、火事になった瞬間はシステムが割り込んで
「勝手にMAX音量で非常アナウンスが鳴る」という天才的な仕組みなので安心です。
間違えてマイクを持ったままマイクの赤いボタンを押してしまいました。
ただの館内放送ではなく「緊急の非常割り込み放送モード」になって
建物中のBGMが切れ、あなたの声が緊急放送として大音量で全館に流れてしまいます。
すぐに「ただいまの操作は誤りです」と落ち着いて放送し、盤で復旧してください。
自火報のベルのテストをすると、同時に放送設備も「火事です」と言い始めます。
これが「連動」です。年次の消防点検で盤のテストをする際は、
あらかじめ非常放送アンプ側で「連動停止スイッチ」等の措置を行っておかないと、
ビル中に大音量で避難アナウンスが流れ大クレームになります。
スピーカーが古くて音割れ(ビビリ音)が酷いですが放置してもいい?
放置した場合、いざという火事の時に「ジリリ、ガザザ」というノイズに
なって言葉が聞き取れず、非常放送の「避難指示の意味」が完全になくなります。
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