耐火区画貫通処理とは?
炎の通り道を塞ぐ防火区画
【超解説】とても簡単に言うと何か?
建物の防火壁や防火床を電線や配管が通るために開けた穴を、
燃えない材料で確実にふさぐ工事のこと。
穴がそのままだと火災時にそこから炎や煙が隣の区画に広がるため、
「壁に穴を開けたら必ず元の耐火性能に戻す」という鉄則です。
1. 基本概要
そもそも何か
耐火区画貫通処理とは、建築基準法施行令第112条に定められた
防火区画(面積区画・竪穴区画・異種用途区画)の壁や床を、
電気配線・給排水管・空調ダクト等の設備配管が貫通する箇所において、
所定の耐火性能を維持するために隙間を不燃材料で充填する処置です。
電気設備・衛生設備・空調設備のすべてに共通して必要な横断的テーマであり、
施工管理者にとって「全職種にまたがる品質管理項目」です。
なぜ必要なのか
防火区画は火災時に炎と煙の拡大を一定時間(1〜2時間)
食い止めるための区画です。しかし、その壁や床に配管用の
貫通穴が開いていると、そこが「炎と煙の通り道」になり、
隣の区画へ急速に延焼してしまいます。
特に竪穴区画(階段室・EPS・PS等)は煙突効果で
煙が猛烈な速度で上昇するため、床の貫通処理が不十分だと
火災が一気に上層階に広がり、避難が困難になります。
2. 構造や原理
貫通処理の方法
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モルタル充填工法:
貫通部の隙間をモルタル(セメント+砂)で充填する最も基本的な工法。
金属管や金属ダクトの貫通に対して古くから用いられています。
工期はかかりますが安価で確実な方法です。 -
パテ充填工法:
耐火パテ(不燃性のパテ材)を貫通穴の隙間に充填する工法。
施工が簡単で、ケーブルの追加・撤去時にも
やり直しが容易なため電気工事で最も普及しています。 -
耐火シート・テープ巻き工法:
配管やケーブルに耐火性のシートやテープを巻き付け、
加熱時に膨張(発泡)して隙間を自動的に閉塞する工法。
フィブロック(積水化学工業の製品名)がこの方式の代表です。 -
工法認定品(キット型):
国土交通大臣認定を取得した一体型の貫通処理材。
指定された手順どおりに施工すれば認定性能が
保証されるため、品質管理が容易です。
熱膨張材の原理
フィブロック等の熱膨張材は、通常時は薄いシート状ですが、
火災で約200℃以上に加熱されると体積が5〜10倍に膨張し、
樹脂管が溶けた後の空洞を自動的に塞ぎます。
塩ビ管(VP管)など可燃性の樹脂配管には特に有効な工法です。
3. 素材・形状・規格
主な製品形態
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シート型(巻き付け型):
配管やケーブル束に巻き付けて使用するシート状の耐火材。
施工性が良く、配管径の変化にも柔軟に対応できます。 -
パテ型:
粘土状の耐火材を隙間に詰め込む形態。
不定形の隙間にもフィットし、後からの追加施工も容易です。 -
ブロック型(レンガ状):
耐火ブロックを積み上げて開口を塞ぐ形態。
大きな開口部(EPS・PSの壁面開口)に適しています。 -
カラー型(配管用):
配管を通す円筒形の耐火リング。配管径に合ったサイズを
選定し、貫通穴にはめ込んで施工します。
認定制度
耐火区画貫通処理は国土交通大臣認定を取得した工法・材料を
使用することが求められます。認定番号は「PS060FL-XXXX」
(60分耐火・床貫通)等の形式で表記され、認定条件(配管径、ケーブル本数、壁厚等)を
厳密に守って施工しなければなりません。
4. 主に使用されている場所
貫通処理が必要な箇所
- EPS(電気シャフト)の床・壁貫通部
- PS(パイプシャフト)の床・壁貫通部
- DS(ダクトシャフト)の床・壁貫通部
- 防火区画壁のケーブル・配管貫通部
- 機械室と一般区画を隔てる壁の貫通部
- 竪穴区画(階段室・エレベーターシャフト)の壁・床
- 異種用途区画(店舗と住居の境界)の壁・床
5. メリット・デメリット
メリット(長所)
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防火区画の耐火性能維持:
貫通部を適切に処理することで壁・床の耐火時間を
設計通りに確保でき、延焼を防止します。 -
煙の遮断:
炎だけでなく煙の移動も防ぎ、避難安全性を向上させます。 -
後工事対応が容易(パテ・シート型):
ケーブルの増設や配管の追加時に、既存の処理を
部分的にやり直すだけで対応できます。
デメリット(短所)
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施工管理の手間:
電気・衛生・空調の全職種の貫通箇所を網羅的に管理し、
漏れなく処理する必要があり、管理工数が大きいです。 -
認定条件の厳守:
大臣認定の条件を少しでも逸脱すると無効になるため、
認定書の内容を正確に理解した上での施工が求められます。
6. コスト・価格の目安
おおよその相場(材工共)
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耐火パテ充填(ケーブル貫通1箇所):
約3,000〜10,000円 -
フィブロック等シート巻き(配管1箇所):
約5,000〜15,000円 -
モルタル充填(大開口):
約10,000〜30,000円 -
認定キット型(カラー式):
1箇所あたり約8,000〜20,000円
7. 更新周期と注意点・絶対にやってはいけない悪い使用方法
更新周期
耐火区画貫通処理材自体の耐用年数は建物の寿命と同等
(30〜50年程度)ですが、配管やケーブルの改修工事時に
処理材が撤去・破損されることが多く、その都度復旧が必要です。
定期点検で処理状態を確認する体制が重要です。
絶対にやってはいけない悪い使用方法
「後でやる」と言って配管工事後の貫通部を
何ヶ月も処理しないまま放置すること。
建築基準法違反であり、火災時に延焼の原因になります。
認定書に記載された配管径・本数・壁厚の条件と
異なる状況で「似たような材料だから大丈夫」と
自己判断で施工すること。認定が無効になり法令違反です。
悪い使用方法をするとどうなるか(末路)
貫通部が未処理の場合、火災時に炎と煙が防火区画を突破し、
延焼が想定を大幅に超える速度で拡大します。
特にEPSやPSの竪穴区画が未処理だと「煙突効果」により
煙が一気に最上階まで到達し、避難が極めて困難になります。
建物の竣工後に消防検査で未処理が発覚した場合は使用不許可(検査済証の不交付)となり、
竣工引渡しが大幅に遅延する重大な工程問題です。
8. 関連機器・材料の紹介
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排煙設備:
火災時の煙を排出する設備。耐火区画で煙の拡散を防ぎつつ、
排煙設備で区画内の煙を排出する二段構えの防災対策です。
▶ 詳細記事はこちら -
自動火災報知設備:
火災を検知する設備。EPSやPSの貫通処理が適切に行われていないと
煙が他区画に漏れ、感知器の誤作動や検知遅延の原因になります。
▶ 詳細記事はこちら -
石膏ボード(PB):
耐火区画の壁を構成する主要な不燃建材。
貫通部周囲のPBの補修も耐火性能維持に不可欠です。
▶ 詳細記事はこちら
9. 多角的なQ&A(20連発)
壁の配管周りに白い粘土のようなものが塗られていますが何ですか?
耐火パテまたはモルタルによる耐火区画貫通処理です。
火災時に炎や煙が配管の隙間を通って隣の区画に広がるのを
防ぐために塗られている重要な防火措置です。
リフォームで壁に穴を開けてもよいですか?
防火区画の壁に穴を開ける場合は、必ず耐火区画貫通処理を
行う必要があります。DIYでの施工は難しいため、資格を持った業者に依頼してください。
「フィブロック」とは何ですか?
積水化学工業が製造する熱膨張性の耐火区画貫通処理材の
ブランド名です。火災の熱で膨張して穴を塞ぐ性能を持ち、
業界では代名詞的に使われています。
貫通処理がされていないのを見つけた場合は?
建物の管理者またはオーナーに速やかに報告してください。
防火区画の貫通部が未処理の状態は建築基準法違反であり、
火災時に重大なリスクになります。
マンションのPS(パイプスペース)内は防火区画ですか?
PSは竪穴区画に該当するため、各階の床を貫通する配管は
すべて耐火区画貫通処理が必要です。PS内の点検時に処理状態を確認してください。
樹脂管(VP管)の貫通処理で何を使うべきですか?
VP管は火災で溶けて空洞ができるため、熱膨張材(フィブロック等)が必須です。
溶けた穴を膨張材が自動で塞ぐ仕組みです。
金属管の貫通処理は何を使いますか?
金属管(鋼管・銅管)は溶融しないため、
モルタル充填やロックウール充填+耐火シール材での
処理が一般的です。金属管でも隙間は必ず充填してください。
ケーブルの貫通処理のやり方は?
ケーブル束を通した開口にロックウールを詰め、
両面から耐火パテで平滑に仕上げるのが基本です。
認定工法に定められた充填厚みを厳守してください。
施工後の確認ポイントは?
充填材に隙間・ひび割れがないか、認定条件(厚み・範囲)を
満たしているか、表示ラベル(認定番号等)が貼付されているかを
写真に記録してください。消防検査の必須提出書類です。
異なるメーカーの材料を混ぜて施工してよいですか?
原則として認定は特定メーカーの製品と工法の組み合わせで
取得されているため、異なるメーカーの材料を混ぜると
認定が無効になる可能性があります。避けてください。
貫通部の管理台帳はどう作成すべきですか?
階・区画ごとに貫通箇所をリスト化し、配管種別・口径・
使用材料・認定番号・施工日・施工写真を記録します。
消防検査時にこの台帳の提出が求められるケースが多いです。
施工のタイミングはいつが適切ですか?
全職種の配管・ケーブルの敷設が完了した後に一斉施工するのが
効率的です。ただし追加配線の可能性がある場合は、
やり直しが容易なパテ型を使用してください。
消防検査での指摘が多い箇所はどこですか?
EPS・PSの各階床貫通部が最も指摘が多い箇所です。
特に「一部の配管しか処理されていない」
「隙間が残っている」という不完全施工が散見されます。
既存建物の改修で貫通処理を追加する場合の注意は?
既存の処理材を撤去してから新たに施工し直すか、
既存処理材の上に追加施工が可能かをメーカーに確認します。
認定条件が既存の壁構造と合致するかの確認が重要です。
竪穴区画と面積区画で要求される耐火時間は?
面積区画は1時間耐火が基本、竪穴区画も1時間耐火が基本ですが、
高層区画(11階以上)は2時間耐火が要求されます。
使用する認定材料の耐火時間がこれを満たすか確認してください。
定期的な点検は必要ですか?
建築基準法第12条の定期報告(特定建築物定期調査)で
防火区画の維持状況が調査項目に含まれています。
年1回程度のEPS・PS内の目視確認を推奨します。
テナント改装工事後に貫通処理がされているか不安です。
テナント工事の完了時に竣工検査を行い、貫通処理の施工写真と使用材料の認定書を
提出させることを入居契約のルールに含めてください。
貫通処理材が経年でひび割れています。大丈夫ですか?
軽微なひび割れでも隙間から煙が通る可能性があるため、
耐火パテやシール材で補修してください。ひび割れが広範囲の場合は再施工を検討します。
使われなくなった配管の穴はどうすべきですか?
配管を撤去した後の貫通穴は、そのまま放置せずに
モルタルまたは耐火材で完全に閉塞してください。
空の貫通穴は防火区画の欠損として最も危険な状態です。
消防点検で「是正」を指示された場合の対応は?
指摘箇所の貫通処理を速やかに実施し、施工写真と使用材料の認定書を添付した
改善報告書を消防署に提出してください。