幹線設計の基礎(許容電流と電圧降下)
建物の血流を決める。安全かつ無駄のない電線サイズの選び方

【超解説】とても簡単に言うと何か?

電気設備における「幹線(かんせん)」とは、受電設備(分電盤の大元など)から各フロアの分電盤へと電気を運ぶ、いわば「建物の大動脈」となる太い電線のことです。
もし幹線の電線が細すぎると、電線が発熱して火災になります。逆に太すぎると、莫大なコストとスペースの無駄になります。
安全とコストのバランスを取るための計算が「幹線設計」です。

1. 幹線設計の3大要素

幹線に使う電線の太さ(サイズ)を決めるためには、以下の3つの要素を同時に満たす必要があります。

① 許容電流(きょようでんりゅう)

電線に安全に流すことができる最大電流のことです。電線に電流が流れると抵抗により発熱します。電線の周りの絶縁物(ビニルなど)が熱で溶けないように、電線の太さごとに許容電流が決められています。
使う機器の最大電流の合計(想定負荷)よりも、電線の許容電流が大きくなければなりません。

② 電圧降下(でんあつこうか)

電線自体にもわずかな電気抵抗があるため、大元から機器までの距離が長くなればなるほど、途中で電圧が下がってしまいます(100Vで送り出したのに末端では90Vになってしまうなど)。
電圧が下がりすぎると機器が正常に動かないため、内線規程により「電圧降下は〇%以内」に収まるように、電線を太くして抵抗を減らす必要があります。

③ 過電流遮断器(ブレーカー)との協調

万が一、電線の許容電流を超える異常な電流が流れた場合、電線が燃える前に「ブレーカー」が先に落ちて電気を遮断しなければなりません。
「機器の最大電流 < ブレーカーの容量 < 電線の許容電流」という関係性を保つことが原則です。

2. 許容電流の補正(電流減少係数)

電線の許容電流は「1本だけが空気中にある状態」を基準にしていますが、実際の現場では電線管(金属管PF管)の中に複数の電線を束ねて配線します。

電線を束ねると熱が逃げにくくなるため、束ねる本数に応じて許容電流を減らして計算しなければなりません。これを「電流減少係数」と呼びます。

  • 管内に3本以下の場合: 許容電流 × 0.70
  • 管内に4本の場合: 許容電流 × 0.63
  • 管内に5〜6本の場合: 許容電流 × 0.56

例えば、本来の許容電流が27Aの電線を3本束ねて管に入れると、27A × 0.70 = 18.9A までしか流してはいけないことになります。

3. モーター(電動機)負荷の特例

ポンプやエアコンの圧縮機などのモーター(電動機)は、電源を入れた瞬間に、通常の運転時の数倍もの巨大な電流(始動電流)が流れます。

そのため、モーターを含む幹線の設計では、通常の照明やコンセントだけの計算よりも、電線を太くし、ブレーカーの容量も特別に大きく設定するルール(電動機等の定格電流の合計の1.25倍など)が内線規程で細かく定められています。

4. 注意点・法規制

【重要】需要率の考慮(コストダウンの鍵)
ビル内にあるすべての照明やエアコン、パソコンが「1年365日、24時間同時にフル稼働」することは現実にはありえません。
設計上、「最大でも全体の〇%しか同時に使われないだろう」という割合を「需要率(じゅようりつ)」と呼びます。(例:住宅なら60%、事務所なら70%など)
全機器の合計電流をそのまま使うのではなく、需要率を掛けて現実的な最大電流を算出することで、過剰な太さの電線を使うことを防ぎ、コストダウンを図ります。

5. 多角的なQ&A

一般の方向け

幹線設計とは何ですか?

建物に電力会社から供給された電気を、各階や各部屋のブレーカーまで届けるための「太い電線(幹線ケーブル)」の太さや経路を決める設計です。幹線が細すぎると電圧が下がり、機器が正常に動作しなくなります。

「電圧降下」とは何ですか?身近な例で教えてください。

電線は長くなるほど電気抵抗が増え、末端の電圧が下がる現象です。延長コードを何本もつないだ先でドライヤーの風が弱くなるのと同じ原理です。建物の幹線設計ではこの電圧降下を一定値以内に抑える必要があります。

ブレーカーが頻繁に落ちるのは幹線の問題ですか?

幹線の容量不足が原因の場合もありますが、多くは分岐回路(個々のブレーカー)の容量超過です。エアコンやIHクッキングヒーターなど高出力機器を追加した場合は、分電盤の容量と幹線の見直しが必要になる場合があります。

オール電化にするには幹線の工事が必要ですか?

はい。ガス併用の住宅は通常40A〜60A契約ですが、オール電化では60A〜100A以上が必要です。電力会社からの引込線と幹線ケーブルの太径化(CV8sq→CV14sq等)、分電盤の交換工事が必要になります。

単相と三相の違いを簡単に教えてください。

単相は一般家庭で使う電気(100V/200V)で、照明やエアコン等に使います。三相は業務用の電気(200V)で、モーターやポンプ等の動力設備に使います。電気料金は三相の方が割安ですが、家庭用機器には使えません。

業界関係者向け

幹線ケーブルのサイズ選定の手順は?

①負荷容量の集計、②需要率・負荷率の適用、③許容電流による最小サイズの決定、④電圧降下の検算(内線規程:2%以内推奨)、⑤短絡電流に対する保護協調の確認の順で決定します。

電圧降下の計算式は?

単相2線式: e=2×I×L×(R cosθ+X sinθ)、三相3線式: e=√3×I×L×(R cosθ+X sinθ) が基本式です。eは電圧降下(V)、Iは電流(A)、Lはこう長(km)、R・Xはケーブルのインピーダンスです。

内線規程における電圧降下の基準値は?

幹線で2%以内、分岐回路で2%以内(合計4%以内)が推奨値です。60mを超える場合は幹線3%以内が認められます。供給電圧が101V±6V(95〜107V)の範囲内に収まることが電気事業法の基準です。

バスダクトとケーブル幹線の使い分けは?

バスダクトは大容量(400A以上)の幹線に適し、将来の増設対応が容易ですが、コストが高く直線ルートに限定されます。ケーブル幹線は曲がりや段差に対応しやすく、中小容量(400A以下)では経済的です。

変圧器(トランス)の容量選定と幹線の関係は?

変圧器の容量は負荷容量の合計に需要率を乗じて決定し、幹線ケーブルは変圧器の定格電流に対応したサイズとします。変圧器の一次側遮断器と幹線の保護協調(遮断器のトリップ曲線とケーブルの許容短時間電流の整合)も重要です。