ケーブルトレイ(ラダー・パンチング)とは?
多数の主要な経路を載せて空を駆ける、鋼鉄のハイウェイ
【超解説】とても簡単に言うと何か?
工場やビルの天井裏で、
電線管に入りきらない大量の太いケーブルを載せて運ぶ幅広の金属棚です。
1. 基本概要
そもそも何か
ケーブルトレイは、大量の多条配線(多数のケーブルを一度に這わせる)
を支持するためのシステムです。細いパイプに無理やり線を通す
「管工事」とは異なり、大きく開いたトレイの上に線を「並べて置くだけ
(転がし配線・ラック配線)」で済むため、大容量配線の主役となります。
なぜ必要なのか
データセンターや生産工場では、高圧ケーブルやLANケーブルが信じられない
本数(数百〜数千本)行き交います。それを全て一本一本パイプに通すのは
物理的にもコスト的にも不可能であるため、幅が数十センチもある
「トレイ(お盆、受け皿)」を作って一網打尽に載せるのが最も合理的だからです。
2. 構造や原理(放熱性と開放感)
熱をこもらせない(放熱効果)
太いケーブルに大電流が流れると激しく発熱します。
密閉された管の中に何本も詰め込むと、熱が逃げず(放熱阻害)に被膜が
溶けて火災になります。ケーブルトレイは上面が完全に「開放(オープン)」
されているため空冷効果が抜群で、許容電流を高く保てるのが最大の強みです。
増設とメンテナンスの容易さ
管と違い、どこからでも電気の線を目視できます。
「この機械を増設したいから、新たに太い線を1本追加しよう」という時、
パイプならワイヤーで隙間を無理やり押し込む地獄の作業になりますが、
トレイなら上から「ポイッ」と載せて紐で縛るだけで数分で終わります。
3. 素材・形状・規格
ラダー型(梯子型)
左右の太いレールの間に、横桟(子桁)がスカスカの等間隔で入っている、
まさに「はしご」の形状です。最も放熱性が高く、ホコリが底に
溜まらないため工場の幹線用に最強です(下から見上げると線が丸見えです)。
パンチング型(穴あきトレイ)・ソリッド型
底面が鉄板で覆われており、そこに無数の小さな穴(パンチング)が
空いている型です。細いLANケーブルなどが下に垂れ下がらず安全で、
見栄えも良いためデータセンターやオフィスのEPS(パイプスペース)等で使及。
(全く穴のない強固なソリッド型ケーブルラックもあります)
4. 主に使用されている場所
使用される施設
発電所、変電所、石油プラント、半導体工場などの産業施設のほか、
大型商業施設(ショッピングモール)のバックヤードの天井、
オフィスビルのシャフト(各階へ縦に線を通す縦穴・EPS)など、
いわゆる「電気の幹線大動脈」が走る場所に君臨しています。
具体的な設置位置(空中の設計)
天井から全ねじ(寸切りボルト)とアングル金具で頑丈なブランコを作り、
その上に幅30cm〜100cm(1メートル!)の巨大なトレイを載せます。
重力に負けないよう、およそ『支持点間隔は1.5m〜2.0m以下』という
短いスパンで、大量のボルトを使ってコンクリートから空中に固定されます。
5. メリット・デメリット
メリット(長所)
圧倒的な「物量戦」に強いことです。
人間の腕より太いCVケーブル(600SQなど)を何条も這わせる場合、
トレイという巨大な土台があれば、チルホール(牽引機)などで
強引に引っ張り込んで載せるだけで超ヘビー級の配線工事が成立します。
デメリット(短所・弱点)
「ネズミの大通り」になることです。
開放的でちょうどよい幅広のトレイは、ネズミやハクビシンにとって
建物を縦横無尽に移動できる最高の高速道路になります。
そこでケーブルをかじられて大停電(地絡)が起こるリスクが常に付きまといます。
6. コスト・価格の目安
導入や更新にかかる費用
巨大な鉄の塊(亜鉛めっき鋼板やアルミ製)であるため、パイプ類に比べると
高価ですが、大型幹線工事としては「最も安上がりなルート構築システム」です。
おおよその相場(ネグロス電工・ネグラック等の材料費目安)
- 金属製ラダートレイ(幅300mm / 長さ3m): 約 8,000円〜15,000円/本
- パンチングトレイ(幅600mm / 長さ3m): 約 15,000円〜25,000円/本
- 付属品(接続用のジョイント金具やブラケット等): トレイ本体と同額以上の費用が掛かります
合計目安: 工場などで何百メートルも敷設する場合、
支持金物込みで数百万円規模の立派なインフラ投資となります。
7. 更新周期と注意点・絶対にやってはいけない悪い使用方法
更新周期(推奨交換時期)
屋内であれば躯体(コンクリート)と同じく半永久的ですが、
「塩害(海風)」や「化学工場の腐食ガス」に晒される環境では、
鉄が赤サビに侵されて数年で崩落の危険が出ます。
腐食が見られたら、ケーブルを浮かせて部分的にトレイの下敷きを交換します。
絶対にやってはいけない悪い使用方法
頑丈な鉄の橋に見えますが、あくまで「ケーブルの重さに耐える計算」
で作られた支持物です。作業員が点検時に横着をしてケーブルトレイの上に
乗って数歩歩くと、人間の局所的な点荷重(数十キロ)で支持金具が
破断し、ケーブルごと真下の機械の頭上に落下する大事故になります。
悪い使用方法をするとどうなるか(末路)
重さ数トンの高圧ケーブルと鉄のトレイが落下すると、真下の設備を粉砕
するだけでなく、ケーブルが引っ張られて変電所の「キュービクル(高圧盤)」
の端子が根本から破断し、大規模な波及事故・極めて危険な感電を
引き起こします。(労働安全衛生法でも絶対に乗ってはならないと規定されています)
8. 関連機器・材料の紹介
トレイの上を走る代表的な主役と、トレイを支える縁の下の力持ちです。
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低圧・高圧ケーブル(CV・CVT):
トレイの主役。CVケーブルなど強度と絶縁性に優れた太い線を、
数本ずつインシュロックで綺麗に横桟に縛り付けて這わせます。
▶ 詳細記事はこちら -
全ねじ(寸切りボルト等):
ケーブルとトレイを合わせた「数百キロ」という絶望的な重量を
天井から空中で受け止める、最も過酷な負荷がかかる吊り下げ金具です。
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9. 多角的なQ&A(20連発)
ホームセンターの天井にある銀色の溝(レースウェイ)とは何が違いますか?
レースウェイは「幅5センチほどの細い箱」で、下に照明を吊るのが主目的です。
ケーブルトレイは「幅30〜100センチの巨大な橋」で、ただひたすら
大量の極太ケーブルを寝かせて運ぶための「超重量級の道」という明確な違いがあります。
トレイの上にフタ(カバー)が乗っているものと、無いものの違いは?
通常はフタ無し(開放)で使いますが、「上から水やホコリが落ちてくる場所」
や「直射日光があたる場所」では、ケーブルを保護するために専用の
金属カバー(セパレーター等)をパチンと上から被せて防御します。
トレイを下から見上げると、中の線が汚らしく見えるのですが。
デザイン性よりも「機能と放熱」に特化した設備だからです。
美観が求められるオフィスのエントランスなどは、必ず天井を(ボードで)張って
トレイを完全に天井裏に隠してしまうため、通常一般人の目に触れることはありません。
データセンターでトレイが「黄緑色」などのカラフルな色に塗られています。
線の種類が一目でわかるようにする「色分け(識別)塗装」です。
一般電力(商用)をグレー。非常用電源(UPS)をオレンジ。LANや光ファイバーの
通信系統をグリーン、とトレイの色を分けることで作業員のヒューマンエラーを防ぎます。
屋外のトレイに、カラスが巣を作っているのを見ました。
ケーブルの熱で温かく、外敵の来ないトレイの上は絶好の巣作りポイントです。
しかし放置すると木の枝や金属ハンガーがケーブルと接触し、大規模な地絡
(ショート停電)を起こすため、電気を止めて直ちに撤去する緊急事態です。
トレイの上にケーブルを転がす際、何本まで重ねて(多段積み)良いですか?
大電流が流れる強電ケーブル(CV等)の多段積み(サンドイッチ状態)は、
中段のケーブルの熱が逃げず燃えるため「原則1段(平積みのみ)」
が法規上のセオリーです。
ただし熱を持たないLANや通信ケーブルであれば、山盛りに重ねても問題ありません。
「セパレーター(仕切り板)」をトレイの真ん中に立てる理由は?
強電(100V以上の動力)と弱電(LANや通信)を同じトレイに載せる場合の
「ノイズ干渉と感電対策」です。間に鉄板の壁(セパレータ)を立てることで
磁界のノイズを遮断し、電波障害や誤作動を防ぐ法規で定められた区画割りのためです。
太いCVケーブル(325SQなど)をトレイの「曲がり角(エルボ)」に添わせるコツは?
太い線は鉄の棒のように硬いため、コーナーの内側(インコース)で
急に曲げようとすると許容曲げ半径を超え、被覆が裂けて一発でパァになります。
必ず大回りのアウトコースからジワジワと曲げ、
インシュロック(結束バンド)でガッチリ拘束します。
ジョイント部(継手)に、太い緑色の「アース線(ボンディング線)」を跨がせる理由は?
「等電位ボンディング(全体の一体アース)」を行うためです。
トレイの継手のネジ止めだけでは電気的接続(導通)が完璧とは言えません。
万が一漏電した時のため、
端から端まで全てのトレイを確実なアース電位にするための命綱です。
トレイの上に配線を縛る(結束する)間隔の目安は?
内線規程により、水平方向に這わせる場合は「3m以内」、
壁などの垂直方向に立てて這わせる(立上り)場合は「1.5m以内」で、
自重でずり落ちないように耐候性のある太い結束バンドや専用クランプで横桟に強固に緊縛しま
す。
空調屋のダクトと、電気屋のケーブルトレイの「高さが干渉」しそうです。
現場監督の腕の見せ所(恐怖の調整会議)です。
後から電気のトレイを曲げるのは至難の業です。着工前のBIM(3D図面)や総合図で、
「空調の太いダクトが一番上」「その下に水(配管)」「一番下が電気(トレイ)」
等、絶対にぶつからないルールを徹底します(水と電気は離すのが鉄則)。
「耐火隔壁(防火区画貫通)」の処理で指摘を受けやすいポイントは?
A部屋からB部屋へ、燃えない壁の穴を通してトレイが突き抜ける場合、
火災が発生するとトレイの空間を通ってB部屋に炎と煙が猛スピードで燃え広がります。
穴の隙間と、
トレイの中のケーブルの間の隙間一つ一つ全てを「耐火パテ」で完全に塞がねばなりません。
塩害対策で「アルミニウム製トレイ」を指定した場合の注意点は?
アルミはサビには強いですが、鉄の鉄骨やステンレスのボルト等を直接
接触させて止めると、「異種金属接触腐食(電食)」を起こして
アルミがボロボロに溶けて崩れてしまいます。
必ず間に「絶縁性のゴムパッキン等」を挟みます。
天井スラブから吊る「全ねじ(ボルト)」のサイズ指示はどうしますか?
幅30cmなどの軽いトレイならW3/8(三分ボルト)で済みますが、
幅60cm以上に極太ケーブルが満載される「超重量級」の場合は、
W1/2(四分ボルト・約12mm)等の極太ボルトへ設計変更して耐震強度を計算させます。
「垂直トレイ(壁面立ち上がり)」での落下防止対策は?
ケーブルの「数百キロの自重」がすべて下に向かってかかる恐怖のエリアです。
通常のナイロンバンドでは数年で千切れてケーブル全体が雪崩を起こすため、
「専用の金属製ケーブルクランプ(サドル)」で、
横桟1段ごとに絶対に滑り落ちないよう挟み込みます。
工場で、トレイの上にホコリが10センチ以上こんもりと積もっています。
極めて危険な「火災の時限爆弾」です。
ホコリがケーブルの放熱を完全に阻害して熱が蓄積し、トラッキングや
熱破壊で発火する原因になるため、休日に工場の電源を落とし、
エアーガン等で吹き飛ばす大清掃が必要です。
大地震のあと、「トレイが波うって(歪んで)」います。
揺れに耐えきれず、吊り金具やジョイントの一部が変形(座屈)しています。
一見繋がっているように見えても、次の余震で完全に破断して数百キロの
鉄塊が落下する恐れがあります。直ちに下への立ち入りを禁止し点検業者を入れてください。
LANケーブルの配線が増えすぎて、トレイから「滝のように」こぼれ落ちています。
何年にもわたり「増設、増設」を繰り返し、不要になった古い線を撤去しない
(わからないから放置する)悪癖が引き起こす「スパゲティ配線」の末路です。
自重でネットワーク障害を起こすため、
休日に古い線の特定と撤去(間引き)大作戦が必要です。
トレイの「フタ」がところどころ開いて(外れて)隙間ができています。
風圧や振動、または前回の点検業者が閉め忘れたことが原因です。
隙間が開いていると強風でフタが完全に飛んで落下事故に繋がるほか、
そこに鳥などが入り込むため、全てピッタリ閉めて外れ止めクリップをかけ直させます。
上の階から水漏れがあり、ケーブルトレイの真上を直撃しています。
水が下のフロアまでポタポタ落ちるだけでなく、配線のジョイント部
(接続箇所)に水が浸透すると深刻な漏電事故になります。
トレイの下に水受け用のバットを応急処置として吊るし、
速やかに上階の水漏れ元を絶つことが最優先です。