全ねじ(寸切りボルト・吊りボルト)とは?
全ねじとも呼ばれ、ダクトや配管を天井から吊るすためのねじ棒
【超解説】とても簡単に言うと何か?
頭が無く全体がネジ山になった長い金属棒で、天井から設備を吊り下げる際に使う支持材です。
1. 基本概要
そもそも何か
全ねじ(寸切ボルト/長ねじ)は、頭部を持たない長尺のねじ棒です。
最大の特徴は、専用のカッターで「好きな長さ(寸)に切って」使える事。
天井の高さがバラバラでも、現場で必要な長さにチョキチョキ切って、
好きな位置でナットを回して止められる、圧倒的な汎用性が武器です。
なぜ必要なのか
コンクリートの天井(躯体)から、照明器具や空調ダクトを「ちょうど良い高さ
(床上3メートル等)」の空中に固定したい時、その空間を繋ぐ頑丈な
「鉄の橋渡し」が必要になります。ロープや針金では重力と地震で
切れたり揺れたりするため、強度のある「鉄の棒」である全ねじが使われます。
2. 構造や原理(ナットとの無限の連携)
どこでもナットが止まる魔法
頭からお尻まで全てが同じ間隔のネジ山で刻まれているため、
「下からナットを回し入れ、途中の好きな高さで止める」だけで、
そこが機材を載せるための「台座(ストッパー)」に早変わりします。
ミリ単位でナットを上下させるだけで、照明の水平(高さ)を完璧に合わせられます。
「吊る」力への圧倒的強度
細い鉄の棒に見えますが、真下へ真っ直ぐ引っ張られる(引張荷重)に対しては、
たった太さ9ミリ(スリー分)の棒1本でも、約数トンの重さに耐えちぎれません。
横からの力(曲げ)には弱いですが、重力に対しては最強のロープです。
3. 素材・形状・規格
「インチねじ(W)」と「ミリねじ(M)」の罠
建設現場の全ねじは、世界標準の「ミリ(M10等)」ではなく、
昔ながらのイギリス式「ウィットねじ(W=分の規格)」が絶対的です。
・**W3/8(三分・さんぶ)**: 現場の9割がこれ。太さ約9.5mmの標準吊り棒。
・**W1/2(四分・よんぶ)**: 太さ約12.7mm。超重量のトレイ・太物配管用。
(※DIYでミリねじのナットを買ってくると、3分の棒に絶対にハマりません)
素材とメッキの違い
屋内用は安い「電気亜鉛めっき(銀色)」や「クロメート(黄色っぽい)」。
屋外用はサビに強い「ドブめっき(溶融亜鉛めっきで作られた分厚くザラついた銀色)」
や、非常に高価な「ステンレス製(SUS・銀ピカ)」が使われます。
4. 主に使用されている場所
使用される施設
現代の天井がある建物(オフィス、学校、病院、スーパー等)の、
「天井裏(ボードの裏)」の暗闇空間を見上げると、上からヒュンヒュンと
無数の全ねじが伸びており、そこにあらゆる設備がぶら下がっています。
「建設業界を裏で支える最も細くて強い骨」と言って過言ではありません。
具体的な使い道
・電気屋…レースウェイ、ケーブルラックの吊り下げ作業。
・空調屋…エアコンの室内機(業務用天井カセット型等)の4点吊り固定。
・水道屋…天井裏を走る汚水管(VU管)の塩ビパイプの支持。
・軽天屋…天井の軽量鉄骨(LGS)全体を吊るすメイン骨格。
5. メリット・デメリット
メリット(長所)
「現場で長さを無限に合わせられる」というアドリブ性の極致です。
図面で「天井から1200mm」と書かれていても、現場のコンクリートの
平滑さが違えば長さが変わります。全ねじなら現物合わせでパチンと
数ミリ単位で切ることができるため、図面の誤差を全て吸収できます。
デメリット(短所・弱点)
「振れ(斜めへの横揺れ)」に絶望的に弱いことです。
重い機器を長い全ねじで吊った状態で地震が来ると、振り子のように
激しく横揺れし、最悪の場合は根元のアンカーがもぎ取られるか、全ねじが
金属疲労でへし折れます。これを防ぐため斜めのテンション(耐震振れ止め)が必須です。
6. コスト・価格の目安
導入や更新にかかる費用
鉄の棒そのものであるため、驚くほど単価の安い資材です。ただし、
切断するための専用電動工具(全ネジカッター)が非常に高価(約10万円)です。
おおよその相場(材料費・ユニクロめっき等の場合)
- W3/8(三分ボルト・長さ1メートル): 約 100円〜150円/本
- W3/8(三分ボルト・長さ2メートル定尺): 約 200円〜300円/本
- ステンレス製SUS304(W3/8・長さ1M): 約 800円〜1,200円/本
合計目安: 1本数十円〜の世界ですが、1つの商業施設で何千、
何万本と使用するため、合計すると相当な重量・資材費となります。
7. 更新周期と注意点・絶対にやってはいけない悪い使用方法
更新周期(推奨交換時期)
サビてボロボロにならない限り長期間使用できます。ただし、一度機器を
撤去して「空中に全ねじだけがブラブラ残っている(잔置:残置)」状態は
次の工事の邪魔になり、引っ掛かって怪我の元になるため
使用しない全ねじは根元のアンカー付近で必ず切断して破棄します。
絶対にやってはいけない悪い使用方法
安全上の大問題です。空中で回転ノコギリを使って鉄棒を切ると、大量の
火花が飛び散って火災になる上、切り口(ネジのギザギザ)が完全に潰れて
溶け、ナットが二度と入らなくなります。「火花の出ない全ねじカッター」か
手動の「ズンギリ用ボルトクリッパー」で押し切るのがプロの常識です。
悪い使用方法をするとどうなるか(末路)
グラインダーで切って潰れたネジ山に、無理やりナットを斜めに入れて
締め込んだ場合、数回転で「カジリ(摩擦で冷間溶接状態になり動かなくなる)」
という現象が起き、締めることも緩めることもできなくなり、最悪は
ハンマーで叩き折るしかなくなるという致命的な時間ロスを生みます。
8. 関連機器・材料の紹介
全ねじとタッグを組む親玉や小間物たちです。
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インサート・アンカー:
全ねじをコンクリートに食い込ませるための根本(メスの受け穴)。
これが無いと、全ねじのギザギザはコンクリには1mmも刺さりません。
▶ 詳細記事はこちら -
レースウェイ(配線ダクト):
全ねじが空中で健気に支えている箱状のレール。
全ねじのおかげで、1.5m間隔で水平を保ったまま宙に浮けます。
▶ 詳細記事はこちら
9. 多角的なQ&A(20連発)
おしゃれな店舗の天井から、長い銀色のネジ棒がそのまま丸見えですが…
あえて天井の板を張らない「スケルトン(剥き出し)天井」というデザインです。
隠れるはずだった全ねじが丸見えになるため、美観を気にして
「全ねじごと上から真黒なペンキで塗装」して目立たなくするのが最近の流行りです。
ホームセンターのM8(ミリ)のナットが、現場の寸切りボルトに入りません。
現場のボルトは「W3/8(三分・さんぶ)」という建築専用のピッチです。
太さがほぼ同じ(約9.5mm)でも、「ネジ山のネジピッチ(ギザギザの幅)」が
ミリねじとは全く違うため、1回転目で引っかかって絶対に回りません。
鉄の棒(全ねじ)に手が触れたら、チクッとして怪我をしました。
全ねじの端面や、ネジ山が削れた「バリ」は刃物のように鋭いです。
特に切断したばかりの切り口はカミソリレベルの鋭さを持つため、
職人は必ず厚手の革手袋等をして作業し、一般の方は絶対に素手で触れてはいけません。
エアコンの室内機が揺れるのですが、吊っている棒が細すぎませんか?
強度的には3分ボルト4本で「乗用車を吊り上げられる」ほどの余裕があります。
揺れるのは重力の問題(細さ)ではなく、「斜めの突っ張りの不在(横揺れ)」が原因です。
気になる場合は防振ゴムを噛ませるか、斜めに金具を打って揺れを止めます。
外に全ねじを置いておいたら、1日で真っ赤にサビました。
工場出荷時の油が飛んで雨に当たると、「電気亜鉛めっき(ユニクロ)」は
一瞬でサビの餌食になります。
屋外や水回りには、高いですが必ず「ステンレス製」を使うのが鉄則です。
「全ねじレンチ(専用の回し具)」を無くしました。手で回せません。
頭が六角形ではないため、普通のスパナでは掴めません。
裏技として「ナットを2つ向かい合わせにギュッとロックする(ダブルナット)」
と、その下のナットに普通のスパナやレンチを掛けて全ねじごと強力に回し込めます。
全ねじカッターで切った後、どうしてもナットが入りにくい時のコツは?
全ネジの刃が摩耗していると、切る際に端のネジ山が潰れます。
「ナットを入れる前に、斜めにやすり(面取り器)で端を少し削る」か、
「切る前にあらかじめ捨てナットを入れておき、切った後にナットを抜いて山を整える」
という昔ながらの裏技を使います。
全ねじの長さが「あと20センチ」足りません。どう繋ぎますか?
「高ナット(長ナット)」という、長さが3センチほどある長いメス金具を使います。
短い全ねじ同士を長ナットの真ん中で「半分ずつ」突き合わせるように
ネジ込み、お互いが「カチン」と当たれば1本の長い全ねじとして延長できます。
天井裏が狭すぎて、長い全ねじを天井にネジ込むことができません。
1メートルの棒を回す際、棒の上が障害物に当たって回せない場合は、
短い全ねじ(30センチ等)を先にアンカーに入れておき、後から高ナットで
下へ「継ぎ足し(延長)」して長さを稼ぐなど、柔軟に組み立て順を変えます。
「W3/8」と「W1/2」の見分け方が、現場の暗がりだと分かりません。
一見似ていますが、太さがまったく違います(9.5mmと12.7mm)。
3分は少ししなりますが、4分(W1/2)は太すぎてまるで鋼のこん棒のように
硬く重いため、持った瞬間の重さのズッシリ感でプロはすぐに分かります。
吊りボルト(全ねじ)の「落下防止措置」としてどのような法規指導がありますか?
機材を支えるナットの下にもう1つナットを入れる「ダブルナット」と、
全ねじの末端(一番下)から、ナットより下に「ネジ山が3山(約5mm)以上
確実にはみ出している事(かかり代の確保)」写真を撮って証拠を残すよう指導します。
1メートルを超える極端に長い全ねじで重量物を吊る際の耐震対策は?
長さが1.5m等を超えると、全ねじ自体が地震で折れたり曲がったりします。
そのため「振れ止め支持(斜め張り)」に加え、全ねじ自体が座屈しないよう
「全ねじの中心付近に、
横向きに補強金具を抱かせる」等の耐震構造計算に基づいた施工を命じます。
余った大量の「全ねじの端材(切れ端)」の廃棄コストがかさんでいます。
現場での「切り残しダスト」は純粋なスクラップ(鉄くず)です。
産業廃棄物として捨てるのではなく、金属スクラップ・資源回収業者に「鉄屑」
として売却(有価物化)することで、
逆に現場の整理整頓と小遣い稼ぎにするのが腕の良い監督です。
ドブめっき仕様(屋外用)の全ねじに、普通のナット(電気めっき)が入らないトラブル。
ドブめっき(溶融亜鉛めっき)は、分厚い亜鉛のバリアが付いているため、
ネジのギザギザが数ミリ太っています。必ず「ドブめっき専用の(少し広めに作られた)
オーバータップのナット」を発注させないと絶対に回りません。
盤屋(メーカー)から届いた自立盤の「アンカーボルト穴」がミリサイズ(M12)でした。
建築現場には「W1/2(4分)」のアンカーしか無いのに大事件です。
M12の穴に対し、W1/2(約12.7mm)は「コンマ数ミリ太くて入らない」という
悲劇に直面します。仕方がないので盤の穴の端をリーマーで削って広げるか、
変換アンカーを手配します。
天井から「銀色の長い棒だけ」が下に向かって突き出ていて危険です。
過去に設備を撤去した際に、職人が「全ねじを切らずに残していった」状態です。
顔面に接触する大変危険な状態の(特に階段下や機械の前)残置ボルトは、
速やかに安全確保のため「根元から切断」
するか「目立つスポンジカバー」を被せてください。
照明の高さを数センチ変えたい。全ねじのナットを自分で回しても良いですか?
照明への電気の線を抜いた状態なら物理的には可能ですが、
右側だけ数センチ回し、左側を忘れると斜めになって落下し大変危険です。また、
長年締まっていたナットを動かすとサビで固着して舐める(壊れる)
等のトラブルも多いです。
全ねじにテープぐるぐる巻きで別の配線がぶら下がっています。
「他人の全ねじへの相乗り(共吊り)」という適切でない施工方法です。
後から来た電話屋などが、自分達で壁にアンカーを打つのが面倒で、
既存の照明の全ねじに線を縛り付けた結果です。
重量オーバーになるため直ちに止めさせてください。
全ねじがサビて、結露の水滴と一緒に赤いサビ汁が垂れてきて床を汚します。
空調の冷風が全ねじに当たり、結露してサビが発生している典型例です。
サビを削って上からサビ止め塗料を塗るか、根本解決として全ねじ全体を
保温材(断熱チューブ等)ですっぽり覆うことで、空気を遮断し結露の連鎖を止めます。
全ねじの色が「黒」一色のものを見かけました。塗ったのですか?
ライブハウスやシアター、舞台裏など「照明の光を反射させない意匠設計」
の場所では、最初から艶消しブラック塗装された「黒全ねじ」が存在します。
これも現場に合わせた特殊資材であり、
黒いナットと組み合わせて「見えない配慮」をしています。