インサート・アンカーボルトとは?
数トンの設備を空中で鷲掴みにする、コンクリートの「歯」
【超解説】とても簡単に言うと何か?
コンクリートの天井や壁に重い設備を固定するために、
埋め込みまたは後打ちで設置する金具です。
1. 基本概要
そもそも何か
「インサート」は、建物を作る時(コンクリートを流し込む前)に、鉄筋や
木の枠に釘で打ち付けて埋め込んでおく「雌ネジ(穴)」の部品。
「アンカーボルト」は、建物が完成した後(カチカチのコンクリ)に、
ドリルで穴を開けてガツンと打ち込み、中で開いて食い込ませる「杭」です。
なぜ必要なのか
電気屋の「配管(パイプ)」や「ケーブルラック」「分電盤」「大型の照明」は、
何本も集まると数百キロにもなる強烈な重力のかたまりです。
ただのネジや木ネジをコンクリートに打ってもパラパラと崩れて簡単に抜けるため、
コンクリートと完全に一体化し「絶対に引っこ抜けない碇(いかり)」が必要です。
2. 構造や原理(先打ちと後打ち)
先打ち(インサート)の原理
「木枠(型枠)」の上にプラスチック色をしたコマのような形の
インサートを釘で打ち付けます。その上から生コンクリートが流し込まれると、
コンクリートの中にコマが強力に埋もれて固まります。下から木枠を
剥がすと天井に「綺麗なネジ穴(メス穴)」だけが現れる魔法の工法です。
後打ち(アンカー)の拡張原理
カチカチのコンクリに「ハンマードリル」で円柱の穴をほぐし開け、
そこに鉄の筒(アンカー)を差し込みます。上からハンマーや専用のピンで
「ガン!」と中心を叩き込むと、筒の先端の鉄が「傘(タコ足)」のように
『ガバッ!』と広がり、岩肌に凄まじい摩擦力で食い込んで絶対に抜けなくなります。
3. 素材・形状・規格
グリップアンカーとルーティアンカー
**グリップアンカー(本体打込み式)**: 打ち込んだ後、天井に「メスのネジ穴」
だけが残るタイプ。後から全ねじ(ボルト)を回し入れます。
**ルーティアンカー(芯棒打込み式)**: 打ち込むと、天井から「雄のネジ(ボルト)」
が飛び出した状態で残るタイプで、機材を被せてナットで固定します。
ねじの太さの規格(分:ぶ)
建築現場ではネジの太さをメートルではなくインチ系の「分(ぶ)」で呼びます。
・**軽〜中量用**: W3/8(三分・さんぶ)= 太さ約9.5mm。・**超重量用(水配管や大型ラック等)
**: W1/2(四分・よんぶ)= 太さ約12.7mm。
「さんにいのアンカー(3分用・外径12mmの下穴)」が一番大量に使われます。
4. 主に使用されている場所
使用される施設
鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨造(S造)の建物の、
『天井・壁・床』の3面すべてです。オフィスビル、マンション、
商業施設、工場など、コンクリートが露出している裏側(天井裏)は
見渡す限り無数のインサートとアンカーだけで機材が空中に浮かんでいます。
具体的な設置位置
【天井】ケーブルラックやレースウェイ、換気ダクトを吊り下げるため。
【壁面】重い分電盤(制御盤)や、壁に這わせる太いパイプを固定するため。
【床面】室外機やトランス(変圧器)、機械の架台の転倒を防止するため。
5. メリット・デメリット
メリット(長所)
1本で「数百キロ〜1トン(引抜荷重)」も耐えうる圧倒的な
強度(把持力)です。適切にコンクリートの奥深くに食い込んだ3分の
アンカー1本には、大人の男性がぶら下がって暴れてもビクともしないという
絶大な信頼性があります。
デメリット(短所・弱点)
「やり直しが一切きかない」ことです。一度コンクリートの奥で
傘を開いた鉄のアンカーは、爆薬でも使わない限り絶対に抜けません。
位置を5センチ間違えて打ち込んだら、サンダー(火花が出るノコギリ)で
飛び出たネジを根元から切断し、隣に一から穴を開け直す地獄を見ます。
6. コスト・価格の目安
導入や更新にかかる費用
部品そのものはただの鉄やプラスチックの塊なので非常に安いですが、
後打ちアンカーは「1個打つのに、ドリルで粉を被りながら数分かかる」
ため、何千箇所と開ける作業の「人件費(手間)」が莫大です。
おおよその相場(材料費とドリル作業費)
- 型枠用インサート(3分用・プラスチックカラー): 約 20円〜50円/個
- グリップアンカー(3分用・後打ち): 約 30円〜80円/個
- ケミカルアンカー(薬品で固める超強力型): 約 300円〜1000円/個
合計目安: 部品代は微々たるものですが、職人に「アンカー1本打って」
と頼むと機材損料等込みで数百〜千円の人工(手間賃)の価値があります。
7. 更新周期と注意点・絶対にやってはいけない悪い使用方法
更新周期(推奨交換時期)
半永久的です。ただし、屋外でサビて水が入ったアンカーは、サビが膨張して
周囲のコンクリートを割り(爆裂)、最後はスポッと抜けます。
「赤いサビ汁が壁に垂れているアンカー」は限界が近いサインです。
(屋外にはサビに強い『ステンレス製』を指定・使用します)
絶対にやってはいけない悪い使用方法
アンカー最大のタブーです。ハンマードリルで穴を開けた後は、中に
砂のような粉が大量に詰まっています。これを「ダストポンプ(シュポシュポ)」
を使って空気を送り込んで吹き飛ばさずに、そのままアンカーを打ち込むと、
粉がクッションになって一番奥まで打ち込めず、傘がしっかり開きません。
悪い使用方法をするとどうなるか(末路)
「効いて(食い込んで)いない」アンカーが出来上がります。
一見壁に刺さっているように見えて、重いケーブルドラムを載せたり、
地震が来た瞬間に、コンクリートの粉ごと「ズボッ!!」と無抵抗で抜け落ち、
総重量数トンの設備が真下で働く人間の頭上に降り注ぐ死亡事故となります。
8. 関連機器・材料の紹介
アンカーと組み合わさって初めて「空中の設備」が完成します。
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全ねじ(寸切りボルト):
アンカーの「メス穴(3分)」にクルクルと捻じ込まれ、
天井から必要な長さだけ下に向かって伸びる鉄の吊り棒です。
▶ 詳細記事はこちら -
ケーブルトレイ(ラダーラック):
アンカーと全ねじが必死に支えようとしている「超重量級設備」の代表格。
アンカー1本の抜けが、ラック全体の崩壊に繋がる運命共同体です。
▶ 詳細記事はこちら
9. 多角的なQ&A(20連発)
家の壁(石膏ボード)に重いテレビを掛けるため、アンカーを買ってきました。
そのアンカーは「石膏ボード用(中空用アンカー)」ですか?
ホームセンターには「コンクリート用」と「モロい壁(ボード)用」が
混在しています。コンクリート用をボードに打つと壁ごと粉砕してテレビが落ちます。
天井に色のついた丸いプラスチック(赤・青・黄など)が等間隔で埋まっています。
「インサート」の目印(カラーボタンプラグ)です。
赤は電気屋用、青は水道屋(設備)用、黄は空調屋用…などと、
職人が自分の陣地(使っていいネジ穴)を一目で見分けられるように色分けされています。
コンクリートに普通の釘(クギ)をカナヅチで叩いても入りません。
コンクリートの硬さは岩と同じなので、普通の鉄の釘はグニャッと曲がります。
「コンクリートネイル」という特殊な焼き入れ釘を使うか、必ず「振動ドリルで穴を開けて、
プラスチックのプラグを入れてからネジを揉む(留める)」必要があります。
アンカーは「地震」で抜けませんか?
正しく施工(深さと拡張)されていれば、アンカーが抜ける前に
周囲のコンクリートの岩盤ごと「すり鉢状(コーン状)」に破壊(引きちぎる)されるほど、
アンカー自体の引き抜き強度のほうが圧倒的に強く作られています。
壁に開いたアンカーの穴を塞(ふさ)ぐ方法はありますか?
退去時など、中に残ったボルトを取り除けない場合は、
ボルト先端を削るか奥に打ち込み、ホームセンターで数百円で売っている
「コンクリート用補修パテ(セメント)」を指で擦り込んで平らにし、塗料で隠します。
アンカーを確実に「効かせた(開いた)」か確認する方法は?
専用の「打ち込み棒」を使います。ハンマーでガンガン叩き入れ、
金属の棒の段差(マーク)が、アンカーの頭と「ツライチ(平ら)」に揃った瞬間に
『完璧に傘が開ききった』という合図になります(勘で叩くのは三流です)。
ドリルの下穴の深さが浅すぎて、アンカーの頭が壁から飛び出ました。
最悪の失敗です。飛び出た頭はもう二度と押し込めず、抜く事も切る事もできません。
必ずドリルの刃(ビット)の指定の深さの位置に「ガムテープで印(マーキング)」
を巻きつけ、規定の深さになるまで厳格に穴を開け切る基本動作を怠った証拠です。
穴を開ける時、壁の中の「鉄筋(建物の骨)」にぶつかってドリルが進みません。
「鉄筋当り」です。そのまま無理やり削り切ると建物の強度が落ちるため、
諦めてその穴の使用を放棄(パテ埋め)し、横に数センチズラして
「斜め上の位置」等へ新しい穴を開け直すのが正解です。
「ケミカルアンカー」とは何ですか?
金属の傘を物理的に広げるのではなく、コンクリの穴の中に「接着剤の
入ったガラス管」を叩き込み、ドリルで粉砕しながら混ぜ合わせることで
『途方もない強度でコンクリートと化学結合させる』超強力な最強の薬品アンカーです。
天井にインサート(先打ち)を忘れたが、生コンが打たれて(固まって)しまった。
職人にとって絶望の光景です。
本来コンクリの前に「釘トンカチ」で1個2秒で一瞬で終わるはずだった作業を、
上を向いて重いドリルを構え、粉をかぶりながら手作業で「後打ちアンカー」に
何地点も変更しなければならないという、凄まじいペナルティ(手間)が発生します。
インサートの「色割り(他業者との陣地取り)」で揉めました。
コンクリ打設前の型枠の上(インサート打ちの現場)は、電気屋、空調屋、
水道屋が「自分の配管ルートの最良位置」を奪い合う戦場です。
同じルートに重なると、後で天井裏で管が衝突するため、
監督が数ミリ単位での総合図(納まり調整)で指揮します。
アンカーの「引張荷重証明書(強度のエビデンス)」を施主に求められました。
公共工事や大型施設では必須です。
実際に現場に打ったアンカー数本に対し、専用の「アンカー引張試験機(油圧ジャッキ)」
をかけ、
『目標のトン数(kN)まで引っ張っても抜けなかった証拠のメーター写真』を提出します。
「デッキプレート(金属の波板天井)」にアンカーは打てますか?
薄い鉄板にコンクリ用ドリルを突き立てると貫通してしまうため打てません。
デッキインサートという「鉄板に穴を開けて引っ掛ける特殊金具」か、
鉄骨をH鋼クリップ等で掴んで支持を取る方法に逃げるよう図面指示を変更します。
ALC壁(軽量気泡コンクリート)への分電盤の固定指示は?
ALCは軽石のようにサクサクでモロいため、通常の強い金属アンカーを叩き込むと
壁がボロボロに砕け散ります(ひび割れ)。
必ず「ALC専用(ITIアンカー、ITハンガー等)の、
壁の奥で傘が開く特殊アンカー」を指定します。
あと施工アンカーを「打ってはいけない天井」とは?
「プレストレストコンクリート(PC板)」などの、
あらかじめ工場で中に強烈なテンション(ワイヤーの引っ張り力)をかけて
作られた特殊な床版です。
ドリルでワイヤーを傷つけると建物が崩壊する恐れがあるため厳格に禁止されます。
壁にアンカーで付いていた消火器ボックスが、壁のコンクリごと剥がれて落ちました。
「へりあき寸法(端からの距離)」不足の施工ミスです。
壁の端っこ(角)ギリギリにアンカーを打つと、コンクリートがアンカーの
広がる力に耐えきれず、
角がゴソッと欠け落ちてしまいます(通常5cm以上離す必要があります)。
工場で、アンカーで設置された大型機械が振動で少しずつズレて動いています。
アンカーナットの緩みか、あるいは振動で穴が広がって「効きが甘く」なっています。
放置すると配管が引きちぎられるため、ダブルナット(ナットの二重掛け)や
Uナット等の緩み止め対策を行うか、
隣にケミカルアンカーを打ち増して強固に固定し直してください。
屋上の防水シートの上にアンカーを打って、エアコン室外機を固定していい?
絶対にダメです(防水層の破壊)。
アンカーの穴から雨水がコンクリートの奥深くへ侵入し、下の階が泥水で水浸しになります。
防水層の上に置くコンクリートブロック(タイガーベース等)の自重で機械を安定させます。
壁に残った不要なアンカー(出っ張り)でケガをしそうです。
通行人が引っかけて服が破れたり、皮膚を切り裂く危険な状態です。
ディスクグラインダー等の刃で壁と「ツライチ(面一)」になるように
根元から切断し、上からコーキングや塗料を塗って安全配慮義務を果たしてください。
駐車場で車が衝突した車止め(プラスチック)のアンカーが抜けかけています。
一度車などが衝突して「引っ張られた(引き抜かれた)」アンカーは、
コーン(傘)とコンクリートとの摩擦の噛み合わせが外れており、もう元の
強度はゼロに等しいです。同じ穴は使えないため、
少しズラして新しく打ち直す必要があります。