膨張タンクとは?
温度変化による密閉配管内の水体積の増減を吸収するタンク
【超解説】とても簡単に言うと何か?
水は温められると体積が増えます(膨張します)。 密閉された配管の中で水が膨張すると、行き場を失って 配管や機器に大きな圧力がかかり、破損の原因になります。 膨張タンクは、この余分な体積を吸収する 「配管のクッション」のような装置です。
1. 基本概要
そもそも何か
膨張タンク(エキスパンションタンク)は、温水配管や 冷温水配管のシステム内で、水温の変化に伴う 水の体積変化(膨張・収縮)を吸収するための容器です。 密閉式と開放式の2種類があり、現在のビル設備では 密閉式(ダイアフラム式)が主流です。
なぜ必要なのか
水は4℃から90℃に加熱すると体積が約3.5%増加します。 例えば配管内に1,000リットルの水がある場合、 約35リットルの体積増加が発生します。 この膨張分を吸収する装置がなければ、 配管内圧力が異常に上昇し、 安全弁が頻繁に作動したり、 配管の接続部や機器本体が損傷する原因になります。
2. 構造や原理
密閉式膨張タンク(ダイアフラム式)
タンク内部をゴム製のダイアフラム(隔膜)で 水室と気室(窒素ガスまたは空気)に分離した構造です。 水が膨張するとダイアフラムが気室側に押され、 気体が圧縮されることで体積変化を吸収します。 水が冷えて収縮すると、気体の復元力で水を押し戻します。
- メリット: 設置場所の制約が少ない(床置き・壁掛け可能)、水質汚染がない、凍結対策が容易
- デメリット: ダイアフラムの交換が定期的に必要、ガス圧の点検が必要
開放式膨張タンク
配管系統の最高部に設置する蓋のない(大気開放型の)タンクです。 水の膨張分がタンク内の水面上昇として吸収されます。 古い建物やボイラー暖房システムに多く見られますが、 現在の新築では密閉式が採用されます。
- メリット: 構造がシンプル、安価
- デメリット: 建物の最上部にしか設置できない、水に空気が溶け込み配管の腐食を促進
3. 素材・形状・規格
材質
タンク本体は炭素鋼(内面防錆処理済み)または ステンレス鋼が一般的です。 ダイアフラムはEPDM(エチレンプロピレンゴム)や ブチルゴムが使用されます。 温水用(90℃以下)と冷温水用(5〜60℃)で ダイアフラムの材質が異なります。
容量の選定
タンク容量は「システム全体の保有水量」×「温度変化による膨張率」 ÷「受入率(気室の圧縮比率)」で計算します。 一般的な空調配管で保有水量1,000Lのシステムの場合、 50〜100L程度の膨張タンクが必要です。
関連規格
JIS B 8265「圧力容器の構造」に準拠します。 内部圧力によっては第二種圧力容器として 労働安全衛生法の適用を受ける場合があります。
4. 主に使用されている場所
- ビルの冷温水空調配管系統
- セントラル給湯配管系統
- ボイラー温水暖房配管
- 太陽熱温水器の配管
- 工場のプロセス冷却水配管
- 地域冷暖房(DHC)の配管系統
設置位置
密閉式は循環ポンプの 吸込側に設置するのが基本です。 機械室内のポンプ周辺に床置きまたは壁掛けで設置されます。
5. メリット・デメリット
メリット
- 配管保護: 異常圧力を防止し、配管や機器を保護
- 安全弁の作動防止: 通常運転時の安全弁作動を防ぎ、水の無駄な排出を防止
- システムの安定: 配管内圧力を安定させ、エア混入やキャビテーションを防止
デメリット
- 設置スペース: 大規模システムでは大型の膨張タンクが必要でスペースを取る
- 定期メンテナンス: ダイアフラムの点検・交換、ガス圧の確認が定期的に必要
6. コスト・価格の目安
おおよその相場
- 密閉式(25L・住宅用): 約2〜5万円
- 密閉式(100L・中規模ビル用): 約10〜25万円
- 密閉式(500L・大規模施設用): 約30〜80万円
- 設置工事費: 約3〜15万円(規模による)
7. 更新周期と注意点・絶対にやってはいけない悪い使用方法
更新周期
ダイアフラムの耐用年数は7〜10年程度です。 タンク本体は15〜20年での更新が目安です。 気室のガス圧は年1回の点検を推奨します。
絶対にやってはいけない悪い使用方法
密閉式膨張タンクの気室のガス圧が低下すると 膨張吸収機能が失われ、配管内圧力が異常上昇します。 安全弁の頻繁な作動や配管損傷の原因になります。
コスト削減のため膨張タンクを省略すること。 温水循環時に配管内圧力が急上昇し、 安全弁からの排水が常態化してシステム水が不足します。
悪い使用方法をするとどうなるか(末路)
膨張タンクが機能しなくなると、 安全弁からの排水が頻発して補給水の増加→水質悪化→ 配管腐食の加速という悪循環に陥ります。 最悪の場合、配管の接続部から漏水が発生し、 天井や壁の水損事故に至る可能性があります。
8. 関連機器・材料の紹介
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減圧弁・安全弁:
膨張タンクと併用して配管の安全を確保する弁類。
▶ 詳細記事はこちら -
給湯器:
貯湯式給湯器には膨張タンクが組み合わせて使用される。
▶ 詳細記事はこちら -
循環ポンプ:
膨張タンクの設置位置を決定する重要な関連機器。
▶ 詳細記事はこちら
9. 多角的なQ&A(20連発)
機械室にある赤い丸いタンクは何ですか?
密閉式膨張タンクです。空調や給湯の配管内の水が温度変化で膨張した分を吸収し、配管の安全を守っています。
膨張タンクが故障すると利用者に影響がありますか?
膨張タンクの故障自体は直接的に影響しませんが、放置すると安全弁の作動→システム水不足→空調の効きが悪くなるといった間接的影響が出ます。
屋上にある開放型のタンクは受水槽ですか?
開放式膨張タンクの場合もあります。受水槽は飲料水用、膨張タンクは空調や暖房の循環水用です。用途を示す銘板で確認できます。
膨張タンクからの音がうるさいのですが。
ダイアフラムの破損やガス圧の低下によりウォーターハンマーのような異音が発生することがあります。管理者に点検を依頼してください。
家庭のエコキュートにも膨張タンクはありますか?
貯湯式の給湯器には逃し弁(安全弁)が内蔵されており、膨張分は排水として放出する方式が一般的です。別置きの膨張タンクは通常ありません。
膨張タンクの設置位置の基本ルールは?
密閉式はポンプの吸込側(サクション側)に接続するのが基本です。ポンプの吐出側に接続すると、ポンプ吸込側が負圧になりエア混入の原因になります。
初期のガス充填圧力はどう設定しますか?
システムの静水頭圧(最高点から膨張タンクまでの高さの水圧)以上に設定します。これよりも低いとタンク内に水が侵入し、有効容量が不足します。
膨張タンクの接続管径はどう決めますか?
膨張タンクの接続口径は、急激な膨張にも対応できるよう通常20A〜40A程度を確保します。メーカーの指定口径に従ってください。
配管内のエア抜きとの関係は?
密閉式膨張タンクは配管内の空気を吸収する機能はありません。配管最高部にエア抜き弁を別途設置してください。
密閉式同士の並列設置は可能ですか?
可能です。容量不足の場合や更新工事で既設を活かしたい場合に、複数台を並列接続して使用できます。
膨張タンクの容量計算の手順は?
①システム全体の保有水量を算出 ②温度変化による膨張量を計算 ③安全弁の設定圧力と静水頭圧から受入率を算出 ④膨張量÷受入率で必要容量を決定します。
開放式から密閉式への改修は可能ですか?
可能です。屋上の開放式タンクを撤去し、機械室に密閉式を設置する改修工事が増えています。屋上の荷重軽減やメンテナンス改善が期待できます。
冷温水系統と冷水系統で膨張タンクは兼用できますか?
原則として系統ごとに独立した膨張タンクを設けます。兼用すると温度変化の影響が予測困難になり、適正な容量設定ができません。
大規模システムでの膨張タンクの選定注意点は?
保有水量が大きくなるほど膨張タンクも大型になります。搬入経路の寸法確認のほか、第二種圧力容器に該当する場合は法定検査の対象になります。
試運転時の膨張タンクの確認項目は?
①気室のガス圧が設計値であること ②システム充水後にタンクのゲージ圧力が正常範囲であること ③温水運転時に安全弁が作動しないこと を確認します。
ガス圧の点検方法は?
タンクの水側バルブを閉め、タンク内の水を抜いた状態で気室のシュレーダーバルブにゲージを接続して測定します。年1回の定期点検を推奨します。
ダイアフラムの破損はどう判断しますか?
気室側のシュレーダーバルブを押して水が出てくればダイアフラム破損です。また、システム圧力の急激な変動や安全弁の頻繁な作動も征候です。
安全弁から水が頻繁に出るのは膨張タンクが原因ですか?
膨張タンクのガス圧低下やダイアフラム破損が原因の可能性が高いです。膨張タンクを点検し、ガス充填またはダイアフラム交換を行ってください。
膨張タンクの交換は大がかりな工事になりますか?
密閉式であれば接続配管の切り離し→旧品撤去→新品設置→接続で半日〜1日程度の工事です。ただし交換中はシステムの停止が必要です。
補給水が異常に多い場合、膨張タンクを疑うべきですか?
はい。膨張タンクの不良→安全弁の作動→システム水の排出→補給水の増加というパターンは典型的な故障症状です。まず膨張タンクのガス圧を確認してください。