非常用押しボタン(発信機)とは?
火災発見者が手動で押し、建物全体に火災を知らせる発信機
【超解説】とても簡単に言うと何か?
火災を発見した人が手で押して、建物全体に火災信号を発報するための非常ボタンです。
1. 基本概要
そもそも何か
自動火災報知設備の構成機器の一つであり、正式名称を「発信機」と呼びます。
天井の感知器が熱や煙を察知する前に、人間が目や鼻で火災の発生に気づいた際、
手動で受信機へ火災信号を送り、非常ベルを強制起動させるための装置です。
なぜ必要なのか
天井に煙が溜まる前の「ボヤ(初期火災)」の段階では、感知器は動きません。
しかし、真横にいる人間は「燃え始めたこと」に100%気づくことができます。
機械が感知するよりも早く、人間から人間へ最速で危険を伝達するためです。
2. 構造や原理
保護板(透明カバー)の破壊構造
ボタンの表面は「保護板」と呼ばれる透明なアクリル等の板で覆われています。
この板は一定以上の力で押し込むと、パリッと割れるか、中へ外れる作りに
なっており、板が割れて初めて奥の黒いボタンスイッチがONになります。
自己保持機能
一度奥までカチッと押し込まれたボタンは、指を離しても自動では戻りません。
これは「押した形跡」を確実に証拠として残し、現場に向かった管理者が
専用の方法でリセット(復旧)するまで半永久的にベルを鳴らし続けるためです。
3. 素材・形状・規格
外観形状と素材
消防法により「外箱の色は赤色(マンセル値制限あり)」と厳格に定められており、
プラスチック製やアルミダイカスト製の丸型筐体に「強く押す」の白文字が
刻まれています。表面には応答ランプ(押したことを確認するLED)があります。
種類や関連規格(P型1級と2級)
**P型1級発信機**: 応答ランプ機能と「電話連絡用ジャック」を備えた最上位品。
**P型2級発信機**: 小型施設用で、電話ジャックなどが省略された低コスト品。
(※現在世の中にある「強く押す」ボタンの9割以上はP型1級発信機です)
4. 主に使用されている場所
使用される施設
マンション、アパートの共用廊下、ビル、学校、デパート、地下街など、
自動火災報知設備(非常ベルシステム)が備わっているすべての建築物です。
法令上、歩行距離50メートルごとに必ず1つは設置しなければなりません。
具体的な設置位置
建物の利用者が避難する際の導線となる、廊下や階段の「非常口」のすぐ隣。
高さは「床面から0.8メートル以上、1.5メートル以下」と定められており、
大人が立ち止まって目の高さで一番押しやすい位置に設置されています。
5. メリット・デメリット
メリット(長所)
誰が見ても一目で「緊急時のボタンだ」とわかるユニバーサルデザインであり、
火災を発期発見した人が、大声を出さずとも一瞬のアクションで全館に
アラートを共有できる、究極にシンプルかつ最強の防災インターフェースです。
デメリット(短所・弱点)
構造がシンプルすぎるが故の「いたずら・誤用」の標的になりやすい点です。
子供がふざけて押したり、酔っ払いが殴って割ったり、あるいは引越し業者が
タンスをぶつけて割ってしまったりすることで、容易に非火災報を引き起こします。
6. コスト・価格の目安
導入や更新にかかる費用
ボタン(発信機)単体は極めて安価です。しかし、これが組み込まれる
鉄の箱(総合盤本体)や消防への申請費用などを合わせると高額になります。
いたずらで割られた保護板だけの部品購入・交換も可能です。
おおよその相場(機器本体のみ)
- P型1級発信機(丸型・ボタン単体): 約 1,500円〜3,000円
- 防雨型発信機(屋外型・防水パッキン付): 約 5,000円〜8,000円
- 交換用保護板(割れたアクリル板の替え): 約 100円〜300円/枚
合計目安: 機器は数千円。修理を業者に依頼すると出張費込で1万円〜2万円。
7. 更新周期と注意点・絶対にやってはいけない悪い使用方法
更新周期(推奨交換時期)
電子基板が含まれない単純な接点スイッチであるため、メーカー推奨交換時期は
「約15年〜20年」と長めです。ただし、屋外等の雨水がかかる場所で内部バネが
激しく錆び付いて動かなくなっている場合は即時の交換が必要です。
絶対にやってはいけない悪い使用方法
いたずらでカバーが割られた後、風で誤作動するからと透明なガムテープを
上から何重にもバツ印に貼って塞いでしまう管理者がいますが、絶対NGです。
いざという時に指でテープを破り抜けず、火災時にボタンが押せなくなります。
悪い使用方法をするとどうなるか(末路)
本物の火災時に「押してベルを鳴らそうとしたのに硬くて作動させられなかった」
という事態になり、逃げ遅れによる人的被害が拡大します。管理会社は
設備維持義務違反に問われ、刑事・民事の両面で莫大な責任を負わされます。
8. 関連機器・材料の紹介
赤いボタンのすぐ周辺にある、連携して作動する機器類です。
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総合盤(自火報):
この押しボタンと、赤い表示灯ランプ、非常ベルが一つの鉄のカバーに
収められた「火災通報フルセット」の箱のことです。
▶ 詳細記事はこちら -
自動火災報知設備(受信機):
ボタンが押されたという情報が最終的に行き着き、情報を処理する頭脳。
▶ 詳細記事はこちら
9. 多角的なQ&A(20連発)
カバーが固そうですが、女性や子供の力でも押せますか?
はい。「2キロ(約20N)」の力で押し込めばカチッと外れるように
法律で調整されているため、体重をかけて指で強く突けば誰でも押すことができます。
押した瞬間にベルが鳴るのですか?
はい、押した瞬間に管理人室の受信機へ信号が飛び、
0.1秒のタイムラグもなく建物中のすべての非常ベルが一斉に爆音で鳴り始めます。
間違えて押してしまった場合、もう一度押せば止まりますか?
止まりません。指を離してもボタンは奥でロックされます。
止めるためには防災センターにある「受信機(親機)」の盤を操作するしかありません。
間違えた場合は直ちに管理人に報告してください。
ボタンを押したら、消防車(119番)も自動で来てくれますか?
原則来ません。このボタンは「建物の中の人に知らせるためだけの内部ベル」です。
最新の特定施設以外では、必ず大声で「火事だ!」と叫び、
スマホで119番通報をしてください。
「強く押す」と書かれていますが、ガラスで指を切りませんか?
割れるのはガラスではなくプラスチック(アクリル等)の板です。
最新のものは「真っ二つに割れるか、そのまま奥にパコンと外れる」設計になっており、
怪我をすることはまずありません。
発信機の結線(C・L・T・A)の意味を教えてください。
C(共通線マイナス)、L(火災信号線プラス)、T(電話線)、A(応答ランプ線)です。
LとCをショートさせることで発報させるという極めて簡単な原理です。
ボタンの下や横にある小さな「穴」は何に使うのですか?
「電話機用ジャック」です。
防災屋さんが専用の「送受話器(黒電話の受話器のようなもの)」をこの穴に差し込むと、
1階の管理人室の受信機と内線通話(点検連絡)ができる構造になっています。
押し込まれたボタンを元に戻す(復旧させる)方法は?
カバーを上にカパッと開け、奥に引っ込んでいるボタンの横から出ている
小さなツメ(赤い爪)をカチッと指で押し上げると、
バネの力でボタンが前に飛び出て戻ります。
保護板(透明カバー)の付け外しのコツはありますか?
無理に引っ張るとカバーの留め具が折れます。
下部にあるビス(マイナスドライバー等で半回転させるタイプ)
を緩めてから手前に引き起こすように外してください。
発信機を押すと、盤の「応答ランプ」が点くのはなぜ?
「あなたの押した信号は、間違いなく1階のメイン盤に届きましたよ」
ということを押した本人に安心させる(フィードバックする)ための法定機能です。
消防検査で発信機についてよく見られるポイントは?
ボタンの高さ(0.8m〜1.5m)が守られているかと、
実際に押した時に確実にベルが鳴り「表示灯が点滅あるいは応答ランプが点灯するか」
という連動試験の確実性です。
図面にP型1級と2級が混在していますがどういうことですか?
現在は2級発信機(電話機能なし)は新規設置ではほぼ使われず全て1級で統一されます。
ただし、昔の小規模建物では混在していたため、既存流用の場合は要注意です。
屋外(雨が当たる場所)に発信機を付けたい場合は?
通常の製品を屋外につけると1年で錆びて腐ります。
必ずメーカーから出ている「防雨型(防水パッキンと特殊コーティング仕様)」
の専用発信機を指定し、水抜き穴を下に向けて設置します。
防爆エリア(引火性ガスの工場)での発信機選定は?
通常のボタンだと接点が「パチッ」と鳴る際の火花でガスが重大な損傷を起こすため、
数十万円する専用の「本質安全防爆構造」
の堅牢な金属製発信機を設置しなければなりません。
押しボタンの周りに障害物を置いてはいけない法律の根拠は?
消防法第17条の環境維持義務に基づき、
「いかなる時も直ちに操作できるよう周囲に物品を置かないこと」が厳命されており、
自販機等で1mmでも隠すことは許されません。
カバーが割れたまま(無い状態)ですが、何か問題ありますか?
大問題です。少し荷物が当たったり掃除機の柄が触れただけで、
館内が混乱するような誤報を引き起こします。
数百円の部品ですので直ちにカバーを購入してハメてください。
引越し業者がぶつけて、ボタンが斜めにめり込んでいます。
中の接点がギリギリショートしていないだけで、
少しの振動で深夜等にいきなり発報する時限爆弾状態です。
早急に防災屋を呼んで本体ごと交換してください(業者の保険対応可能)。
ボタンを押してしまった後、自分達でベルを止める方法は?
前述の通り、現場のボタン横の「ツメ」を起こしてボタンを元に戻し、
その後に管理人室の「受信機」
の盤面にある「復旧スイッチ(リセット)」を押せば完全に止まります。
いたずら防止のために、ボタンに「触れるな」と張り紙をしては?
消防法違反の指導対象になります。火災時に使うことを躊躇させるような
威圧的な張り紙や、見えなくするカバーの増設は絶対にしてはいけません。
古いボタンを見ると「強く押す」ではなく「強く割る」と書いてあります。
昭和時代の一部製品には、リアルな「薄いガラス」を割ってから
ボタンを押すという製品が存在しました。怪我の危険があるため、現在ではすべて
プラスチックが外れる現行品(強く押す)への交換が強く推奨されています。