フロアダクト・セルラダクトとは?
床スラブ内に埋め込まれた電力・通信用の金属製配線ダクト

【超解説】とても簡単に言うと何か?

コンクリート床の内部に埋め込まれた、電源やLANの配線を通すための金属製の溝です。

1. 基本概要

そもそも何か

フロアダクト(床内配線用ダクト)は、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の
建物の「床のコンクリートの層の中」に完全に埋没させる目的で作られた、
背の低い「薄平たい四角の金属製パイプ」です。等間隔で丸いフタが付いており、
そこから地上(室内)へ配線を引き出すことができます。

なぜ必要なのか

「壁が一切ない」広いフロアを持つ銀行の窓口やデパートの売り場では、
デスクやレジを置く中央部の足元から電源を取らねばなりません。
しかし床の上をコードが這うと人が転ぶため、床という強固な岩盤の
「内部」にあらかじめ無数のトンネルを通しておく必要があるのです。

2. 構造や原理(ジャンクションとインサート)

インサート(引き出し口)

ダクトの真上には、30cm〜60cm間隔で「インサートキャップ(丸い栓)」
があらかじめ付けられています。コンクリで平らに固められた後、
必要になった場所の床(Pタイル)を丸く切り抜き、このキャップを外して
「フロアコンセント」を上からパコッとはめ込んで電源を取り出します。

ジャンクションボックス(交差点)

ダクトが縦横に十字に交わる「交差点」には、丸や四角の金属の箱
(ジャンクションボックス)が配置され、床面に金属のフタが見えます。
職人はこの蓋を開け、東西南北に向かってワイヤー(スネーク)を突っ込み、
見えないコンクリートの底の迷宮へ何百メートルも線を通していきます。

3. 素材・形状・規格

フロアダクト(網目状の配管)

主に厚さ1.2mm〜1.6mmほどの亜鉛めっき鋼板で作られた、
横幅70mm、高さ30mm程度の「かまぼこ型・角型」のダクトです。
コンクリートの重圧に潰されない強度を持ち、これをハシゴ状や
碁盤の目状に等間隔(2〜3mピッチ)で敷き詰めます。

セルラダクト(床の鉄板そのものがダクト)

これはさらに大規模なビルの工法です。「デッキプレート」という、
波打った凹凸のある鋼製の床板(コンクリートの土台)の下に、平らな
鉄板を溶接して「床そのものをハニカム(蜂の巣)状の空洞」にしてしまった
超大型ダクト(セルラ=細胞状)で、無限に配線が通せます。

4. 主に使用されている場所

使用される施設

1980年代〜90年代に建てられた中・大型の「オフィスビル」や役所、銀行。
また、重い什器(書架など)を置くためOAフロア(上げ底の空洞床)
にできない「スーパーマーケットのレジ周り」「図書館」「精密工場」の
強固なコンクリート床内部の標準インフラとして採用されます。

2線式・3線式ダクト(強と弱の分離)

ダクトを「2本ワンセット(または3本)」で平行に並べて埋めます。
1本は『100Vの電源用(強電)』、もう1本は『電話やLAN・通信用(弱電)』です。
法律上、これらを同じ鉄の管に混ぜるとノイズや漏雷でパソコンが
吹っ飛ぶため、完全に独立した平行トンネルを設計する絶対ルールがあります。

5. メリット・デメリット

メリット(長所)

「建物の天井高を殺さない」という最高空間効率です。
現代主流のOAフロア(後乗せの上げ底)は、床全体の高さが最低でも
5〜10cm上がってしまい、天井が低く圧迫感が出ます。フロアダクトは
コンクリート躯体に内蔵されるため、元々の天井の高さを1mmも損ないません。

デメリット(短所・弱点)

「コンクリートに埋めたら最後、位置が一生変えられない」という重い十字架です。
ダクトの間隔が2mだとしたら、ちょうど1m離れた絶妙な場所からは
絶対に線を取り出せず、結局最後は床の上にモール(カバー)を貼って線を
引きずる羽目になります。拡張性の低さが現代のITオフィスと相性最悪です。

6. コスト・価格の目安

導入や更新にかかる費用

材料自体は鉄の管と箱ですが、鉄筋工・型枠大工・コンクリート工との
「ミリ単位の高さ調整の合わせ技」となり、建築全体の工期とコストに
莫大な影響を及ぼす超高難易度プロジェクトです。

おおよその相場(材料費と調整費用の感覚)

  • フロアダクト本体(幅70mm・厚さ1.6mm等): 約 3,000円〜5,000円/m
  • ジャンクションボックス(交差点の箱・フタ付き): 約 10,000円〜20,000円/個
  • 専用の引き出し器具(アウトレット・コンセント): 約 5,000円〜10,000円/個

合計目安: 平米単価ではOAフロアよりも高額になりやすく、
ビル建設全体では数千万〜億単位の超巨大インフラ設備投資工事です。

7. 更新周期と注意点・絶対にやってはいけない悪い使用方法

更新周期(推奨交換時期)

配管自体を交換することは「床をコンクリートドリルで全て破壊する(建物解体)」
ことを意味するため不可能です。実質的に設計寿命は「建物の寿命と同じ」です。
中のケーブルだけを入れ替えて数十年運用し続けます。

絶対にやってはいけない悪い使用方法

【NG事例】コンクリ打設の時、ダクトに乗って飛び跳ねたり足場にする

生コンクリートを流す直前、鉄筋の上に寝かされた空洞の薄い鉄ダクト。
それを土建の職人やポンプ車の手元が「足場」扱いして、ドシドシ乗って
歩き回る最悪のタブーです。ダクトがベコンと凹んで潰れ、コンクリートが
固まった後にいざ線を通そうとしても、潰れていて一生線が通らない悲劇になります。

悪い使用方法をするとどうなるか(末路)

ダクトがペシャンコになっていたり、繋ぎ目が外れてコンクリートが
内部に流れ込んで(ノロ侵入)カチカチに固まっていた場合、
そのルートは「永遠の死(完全閉塞)」を迎えます。
回避ルートを作るため、壁や天井から無様な露出配管をする羽目になり大揉めします。

8. 関連機器・材料の紹介

フロアダクトに命を吹き込む・または取り出すための接続器具です。

9. 多角的なQ&A(20連発)

一般人(施設利用者・通行人)目線

床に30センチ間隔で真鍮(金色)の丸い跡が並んでいるのは何?

それが「インサートキャップ(引き出し口)」の跡です。
使っていない部分は、床のモルタルと同じ高さになるように真鍮の丸い皿(メクラ蓋)
でフタがされています。その下には、電気の道が川のように流れています。

床のコンセントを、机の移動に合わせて「50センチだけズラして」と言ったら断られました。

フロアダクトの引き出し口は、建設の時に決められた「数十センチごとの穴」
からしか絶対に出せないからです。コンクリートの強固な床のどこからでも
自由に出せるわけではないため、延長コード等で対応するしかありません。

自分のデスクの真下の床に「四角い鉄の蓋(ジャンクション)」があってたわみます。

交差点である「ジャンクションボックス」の真上です。
強度はありますが金属の蓋であるため、キャスター付きの椅子などで乗ると床が
凹むような違和感があります。
なるべく椅子のキャスター位置から外してデスクを配置してください。

床の銀色の丸い蓋が、一部浮き上がっていて躓(つまず)きそうです。

長年の歩行の振動などで、ネジ留めされた中の金具が緩んでいるか、
下から押し上げられています。放置すると足を引っ掛けて大怪我をするため、
管理会社に連絡して六角レンチ等でしっかり高さ調整(締め直し)をしてもらいます。

最近の新築ビルでは、このフロアダクト工法は使われないのですか?

激減しています。現代はパソコン普及によりデスクの配置変更が激しいため、
パネルを剥がせばどこからでも自由に配線を出せる「OAフロア(上げ底床)」が
圧倒的主流になり、高コストで不自由なコンクリ埋設ダクトは特殊な場所以外廃れました。

職人(施工者・電気工事士など)目線

Pタイル(床材)が貼られた後から、隠れた「インサートの丸い穴」を探すには?

図面を片手にメジャーで当りを付けた後、「強力な磁石(マグネット探知機)」
を床の上で滑らせます。インサートの鉄のフタに「カチッ!」と磁石が吸い付いた
場所がビンゴ。そこに「フロアホールソー」を突き立てて丸くタイルを削り抜きます。

埋設して数年後のダクトに線を通す(通線)作業の地獄ポイントは?

内部の「サビと泥」です。結露の水分が溜まって数年経つと、ダクトの内側が
赤みどろのサビだらけになり、中をワイヤーが一切滑らなくなります。
先に雑巾を括り付けたワイヤーを通して中を何往復かこすり、
サビ取り清掃をしないと線が入りません。

ダクトから線を引き出す「インサートポンチ(打ち抜き)」の注意点は?

ダクトの中にはあらかじめ幹線が走っている事があります。
ポンチというノミのような道具で「ガン!」とインサートの底を開封した際、
打ち抜きすぎて真下を走っている100Vの電線まで刃で叩き切ってしまう痛恨のショート事故に
注意です。

ダクト内での電線の「接続(ジョイント)」は法律でアリですか?

【絶対に違法(NG)】です。電線の接続(圧着等)は、必ずフタを開けて
点検できる「ジャンクションボックスの中」でのみ許可されます。
細いダクトのトンネルの中で繋ぐと、修理が一生不可能になり火災になります(内線規程)。

施工中のダクトの浮き上がり(コンクリ打設時の浮力)を防ぐには?

中は空洞の「空気」であるため、ドロドロの重いコンクリートを流し込んだ瞬間、
船のように強烈な浮力で浮き上がろうとします。事前の「サドル固定(鉄筋への結束)」
やハンマードリルによるコンクリートピン打ちで、
親の仇のようにガチガチに床へ縛り付けます。

施工管理者目線

ダクトの「交差点(ジャンクション)」で強弱電をどうやって交差(クロス)させますか?

2レベル(立体交差)構造を使います。
底の浅いダクトと深いダクトを使い、強電と弱電が交差点ボックスの中で
「鉄の仕切り板」を挟んで上下に立体交差する構造になっており、
絶対に線が触れ合いません。

コンクリート打設「後」のレベル調整(高さ合わせ)の許容誤差は?

ゼロ(許されません)。コンクリ屋が均した(ならした)モルタル仕上げ面から、
ダクトの「インサートの首(高さ)」が飛び出しても、埋もれてもアウトです。
打設直前の「レベル出し(ミリ単位のネジ調整)」がダクト工事の全責任を握る勝負です。

「結露対策」のためのダクト内の防湿処理は?

コンクリートから発生するアルカリ性の猛烈な湿気が冷え、ダクト内部は
プールのように水が溜まります。コンパネへの穴あけ部や、壁の立ち上がり部、
分電盤への到達口など「空気が抜ける道」全てを不乾性パテで封鎖し、
外の空気を遮断する指示を出します。

ダクト敷設後、コンクリート屋が「ミキサー車」を入れる際の巡回監視の重要性は?

命がけです。生コンのホース(バイブレータ等)を持った土建屋は電気屋の
ダクトなど気にせず歩き回り、バイブレーター(振動機)でダクトのジョイントを
破壊して生コンを中へ注ぎ込もうとします。
電気屋が横に張り付いて「そこ!踏むな!」と怒鳴り続けます。

フロアダクトは「接地(アース)」をどこで取りますか?

フロアダクト自体が巨大な「金属の塊」であるため、漏電時の感電を防ぐため
内線規程に基づき、D種接地(またはC種)を盤の根本などで確実に取ります。
ジョイント部もボンド線等で繋がれ建物全体が巨大なアース極となる設計です。

設備管理者(オーナー・保守担当・維持管理)目線

オフィスレイアウト変更で、
壁を建てたら「床の蓋(ジャンクション)」の上に壁が乗りました。

ビル管理としては最悪の配置です(間仕切り設計のミス)。
ジャンクションボックスは将来の配線の「命のメンテ口」です。半分壁の下敷きになると、
二度と蓋が開かずにビルのそのエリア一帯の配線の変更が恒久的に不可能になります。

床のコンセント(インサート)が引っかかって危ないので、フラットに戻したい。

コンセント金具(飛び出ている部品)を抜き取り、最初の「フラットな化粧蓋
(アルミや真鍮の丸いお皿)」をネジ留めで被せれば、床面に段差ゼロの
安全な平面に戻せます。使用しない穴は必ずこの状態に戻すのが管理の基本です。

強い雨が降った後、1階(地べた)のフロアダクトの中が水浸しです。

壁の貫通部や、基礎のコンクリートの「打ち継ぎ部(隙間)」から
地下水や雨水が浸入し、ダクトが「溜池」と化しています。
ポンプで吸い出し、配線が腐食する前に建物の外周防水を直さないと、
全線漏電を起こします。

撤去したLANケーブルを抜く時、途中で引っかかって千切れました。

ダクトの中で線が編み込まれるように絡まっているか、サビと結露で
癒着しています。力任せに引っ張ると、千切れた線がダクトの奥深くに詰まったままになり、
新しく線を通そうとした時に致命的な障害物になるため無理な牽引は禁物です。

ビルの改修工事で「フロアダクトを諦めて、全部OAフロアにしてくれ」と業者が言います。

非常に合理的な提案です。数十年経過したフロアダクトは、サビで線が通らなかったり
通信容量(現代のLANの太さ)に対してパンク状態になっています。
完全にダクトの利用を放棄(蓋を閉めて封印)し、
上に5cmのOAフロアを敷くのが現代の再生手法です。