MDF室・EPS室・PS室とは?
各階を縦に貫き、配線や配管を通すための共用パイプシャフト
【超解説】とても簡単に言うと何か?
ビルの各階の廊下の隅などにある「謎の鉄の扉」の奥にある小部屋や縦穴のことです。
MDF室:ビルのインターネットや電話の大元の基地局。
EPS室:ビルの1階から屋上まで電気の太いケーブルが縦に通っているシャフト(縦穴)。
PS室:トイレや水道に繋がる「水」や「ガス」の配管が縦に通っているシャフト(縦穴)。
これらが無ければ、ビルはただのコンクリートの箱になってしまいます。
1. MDF室(主配線盤室)とは?
MDF(Main Distribution Frame)室は、通信事業者(NTTなど)の光ファイバーや電話回線が道路の電柱・地下から最初にビルへ引き込まれ、そこから各フロアやテナントへと分岐していく「通信の心臓部」に当たる部屋です。
- 設置場所: 外部からの引き込みが容易な1階や地下1階に設けられることが多いです。
- IDF(中間配線盤)との関係: MDFが大元であり、各階にある分岐用の小型の盤(またはEPS内にある盤)を「IDF」と呼びます。
- 環境基準: 大量の通信サーバーやルーターが並ぶため、粉塵を防ぐ防塵塗装や熱暴走を防ぐための「専用の24時間空調」が必須となります。
2. EPS室 / PS室(シャフト)とは?
シャフトとは「煙突のような縦の筒状の空間」を意味します。高層ビルで各階に電気や水を届けるため、床に大きな穴(スリーブ)が空いており、下から上まで貫通している重要なスペースです。
EPS室(Electric Pipe Shaft / 電気パイプシャフト)
電気・通信設備のケーブルを縦に通すスペースです。幹線(太いケーブル群)がバスダクトやケーブルラックによって立ち上がっています。
ただの穴ではなく、人が入って作業ができる広さ(部屋)になっていることも多く、壁面には各階のブレーカー(分電盤)や通信の中継盤(IDF)などが取り付けられています。
PS(Pipe Shaft / パイプシャフト)
給水管・排水管・ガス管・空調配管などを縦に通すスペースです。
EPSと異なり、人が中に入って作業する部屋というよりは、扉を開けたらすぐに配管がギュウギュウに詰まっている点検口的な空間であることが多いです。
3. 建築法令上の超重要事項「防火区画貫通処理」
EPSやPSは「縦の筒」であるため、もし1階で火災が起きた場合、このシャフトが煙突代わりとなってあっという間に炎と煙が最上階まで広がってしまいます。
それを防ぐため、各階の床に空いている穴のうち、ケーブルや配管とスリーブとの間にできた「隙間」を、熱で膨らんで穴を塞ぐ特殊なパテ(耐火材)で完全に埋め尽くす必要があります。これを「耐火区画貫通措置」と呼び、完了時には役所や消防から厳密な検査を受けます。
4. 多角的なQ&A(20連発)
テナントが入居時に光回線を引く際、MDF室での作業は発生しますか?
はい、通信事業者(NTTなど)の工事担当者が、ビルのMDF室からあなたのフロア(IDF)を経由して、専有部内までファイバーを物理的に繋ぐ作業を行うため、作業員がMDF室に入るための鍵の手配が必ず必要になります。
廊下にある「EPS」と書かれた扉は勝手に開けても良いですか?
絶対に開けてはいけません。中には高圧の電気ケーブルがむき出しで通っている部分や、ビル全体の通信を落としかねない重要設備があるため、一般の人は立ち入り禁止です。
PSの近くを歩くと水が流れる音がするのはなぜですか?
PSの中には上階からのトイレ等の排水管(雑排水管や汚水管)が通っているためです。最近では防音材(遮音シートやグラスウール)を巻いて音が漏れないように対策されていますが、深夜など静かな時にはかすかに聞こえることがあります。
マンションの廊下にあるメーターボックス(MB)もPSですか?
はい。「MB(メーターボックス)」は水道やガスの検針メーターが入っている箱ですが、その裏側の壁沿いを水道管などが縦に通っているため、実質的に「MB兼PS」として設計されています。
EPS室の扉の下にある隙間(ガラリ)は何のためですか?
中に設置されている変圧器や分電盤などから発生する「熱」を廊下側に逃がし、空気を循環させるための通風口(ガラリ)です。
EPS室の施工で一番苦労する点は何ですか?
何トンもある太いケーブルを一気に引き揚げる「縦引き(たてびき)」作業です。階層に分かれて職人が配置につき、「せーの!」でウィンチや滑車を使って何階もぶっ通しで引っ張り上げる、文字通り体力の限界に挑む作業が行われます。
PS内での配管接続(溶接など)は難しいですか?
非常に過酷です。狭い暗い縦穴の足場(脚立など)に乗った状態で、火を使う溶接や重い配管を接着しなければならず、姿勢も制限されるため、PS内の作業は常に事故の危険が伴う場所と言われます。
MDF室内で他業種とバッティングすることはありますか?
大いにあります。通信インフラは最後に仕上がるため、土壇場の時期に空調屋、コンセントを付けにくる電気屋、ラックを組む通信屋が狭いMDF室に殺到し、「ちょっとどいてくれ」という場所の奪い合いが起きます。
電気のEPSと水のPSを同じ部屋(シャフト)にするのはアリですか?
絶対にNGです(水と電気の同居は禁止)。万が一水漏れが起きた際、大の大人が感電死するか、ビル全体がショートして大停電を引き起こすため、壁で完璧に隔離しなければなりません。
貫通部の耐火処理パテはどうやって詰めますか?
ケーブルや配管の複雑な隙間に指で押し込んでいきます。建築基準法などにより「◯◯cm以上の厚みで埋めること」と厳格に決まっており、最後に「施工完了シール(誰がいつ施工したか)」を貼って証明します。
現場監督としてMDF室の設計で気を付けることは?
「水害対策(浸水)」を絶対に考慮することです。MDF室が地下や1階にある場合、大雨で水が侵入した際に全滅を避けるため、入り口に防水板(止水板)を設けたり、床を他より10cm上げるなどの対策を図面段階で確認します。
EPS室の広さはどのように決まりますか?
ただ盤が収まるだけでなく「職人が将来メンテナンスする際に扉を開けて作業できる寸法(保守スペース)」を確保しなければならないため、各盤の奥行き+作業幅(約60cm〜100cm)を加味して寸法を建築側へ要求します。
PSの「床の穴(スリーブ)」の墨出しで失敗するとどうなりますか?
地獄を見ます。コンクリートを打設した後に「下の階の穴と上の階の穴のズレ」や「壁ぎりぎりすぎて配管が入らない」ことが発覚すると、硬いコンクリートを削る(はつる)大惨事となり、鉄筋を切ってしまえば建物の強度に関わります。
MDF室の「防塵塗装」とはどんなものですか?
コンクリートむき出しの床だと、靴で歩くだけで目に見えない微細なコンクリート粉が舞い上がり、精密な通信サーバーの冷却ファンに吸い込まれてショートします。それを防ぐため、床面にツルツルの緑色のエポキシ樹脂塗料などを塗ってホコリを抑える仕上げのことです。
引き渡し直前の「EPSロック」とは?
竣工が近づくと、清掃や各種盤の調整が完了したEPSやMDF室には勝手に入れないよう、各扉の鍵を現場監督が一括管理して南京錠などで封鎖します。これにより引き渡し前のイタズラやゴミのポイ捨てを防ぎます。
日常点検でEPS室を開けたとき、どこを確認しますか?
異臭(ケーブルが焦げたような匂い)がしないか、分電盤から「ジー」という異常な振動音(サーモグラフィーで見えない過熱)がないか、ブレーカー類がトリップしていないかなどを五感を研ぎ澄ませて確認します。
PS室から水漏れが発生した場合の初動は?
最速で上階の「給水管のバルブ」またはビル大元のポンプを止めることです。PS内の給水管が破裂すると、数分で滝のように水が下の階のテナントへ流れ込み、数億円の損害賠償事案になるため、管理員のスピードが命の運命を握ります。
テナントが光回線を増設したいと言ってきました。どう対応しますか?
現状のMDF室からテナントの各階(IDF)を繋ぐ縦の通信用配管(空き配管)に余裕があるかどうかを図面や実際に覗き込んで確認します。「もうこれ以上ケーブルを通す隙間がない(パンパン)」ということもよく発生します。
EPS室をテナントの倉庫代わりに使わせてほしいと言われました。
即刻お断り(厳禁)します。EPS内に段ボールや掃除用具を置くことは、ショート時に大火災を引き起こす原因となり、消防査察が入った場合に即座に是正勧告(レッドカード)を食らう重大な違反行為です。
MDF室の空調機が故障するとどうなりますか?
通信機器の強烈な排熱によって部屋の温度が短時間で40℃〜50℃近くまで跳ね上がり、ビルのネット環境や電話交換機(PBX)がすべて熱暴走して停止します。そのためMDFの空調は「万が一壊れてもいいように2台設置してローテーション運転する」のが鉄則です。