PAS(気中開閉器)とは?
電力会社との責任分界点に設置され波及事故を防ぐ気中開閉器
【超解説】とても簡単に言うと何か?
電柱の上に取り付けられ、
自家用施設の事故が電力会社側へ波及するのを防ぐためのスイッチです。
1. PAS(気中開閉器)の基本概要
PASとは何か・どのようなものか
PAS(Pole Air Switch)は、日本語で「気中負荷開閉器」と呼ばれます。
通常、高圧(6,600V)で受電する施設(工場、ビル、大型店舗など)
の敷地内にある第一柱(電柱)の上部に取り付けられる、バケツ型や四角い箱型の機器です。
内部が空気(気中)で絶縁されており、高圧電力の入り切りを行うスイッチの役割を持って
います。
何をするための物か・なぜ必要なのか
機能としては大きな「ブレーカー」のようなものですが、
設置される最大の目的は「波及事故の防止」です。PASは電力会社と
需要家の「責任分界点」に設置されます。もし需要家の施設内でショート(短絡)
や漏電(地絡)が発生した場合、そのまま放置すると電力会社側の配電線のブレーカーが
落ち、同じ配電線から電気を買っている周辺地域(病院や他の工場、信号機等)
一帯を巻き込んで大停電させてしまいます。これを波及事故と呼びます。PASは、
異常な過電流や地絡をSOG制御装置というリレーで瞬時に検知し、
電力会社側のブレーカーが落ちるよりも早く「自分自身のスイッチを強制的に切る」ことで、
異常を自施設内だけに封じ込める重要な役割を担っています。
2. 構造や原理
PASの内部構造
PASの内部は、大きく分けて「開閉接点部」「消弧装置」「操作機構」
の3つの要素で構成されています。筐体(ケース)の中に固定接点と可動接点があり、
操作紐(トジヒモ・キリヒモ)やSOG制御装置からの電気信号によって、
可動接点がバネ機構で瞬時に開閉する仕組みです。
動作原理
PAS単体は「スイッチ」に過ぎず、異常を自分で検知する機能は持っていません。
異常検知の「頭脳」を担うのが、セットで設置されるSOG制御装置です。
動作の流れは以下のとおりです。
- 施設内で地絡(漏電)や過電流が発生する。
- SOG制御装置内のリレーが異常電流を検知する。
- 電力会社側の配電線ブレーカーが瞬時停電(再閉路)を行う。
- その無電圧の瞬間にSOGがPASへ「トリップ(開路)」信号を送る。
- PAS内部のバネ機構が作動し、接点が開いて回路が遮断される。
- 電力会社の再閉路で他の需要家は復電するが、事故を起こした施設だけが切り離される。
この一連の動作により、自施設の異常を周辺地域に波及させることなく封じ込めます。
消弧の仕組み
高圧の電気回路を切断する瞬間には、接点間にアーク(電気の火花)が発生します。
PASは「気中(空気中)」で開閉するため、このアークを消すために消弧室と
呼ばれる空間に磁気で引き伸ばし、空気によって冷却・消滅させます。これが「気中開閉器」
と呼ばれる由来です。
3. 素材・形状・規格
外観と形状
PASの外観は、大きく分けて「バケツ型(円筒型)」と「箱型(角型)」
の2種類があります。いずれも電柱上部に取り付けるため、横幅50cm〜80cm前後、
重量は約40〜60kgです。筐体の両側面からは、ブッシング(碍子)
と呼ばれる絶縁体が突き出ており、そこに高圧ケーブルが接続されます。
主な素材
-
筐体: ステンレス鋼板やアルミ合金ダイキャスト製が一般的です。
耐候性・耐食性を考慮した塗装が施されています。 -
ブッシング(碍子): エポキシ樹脂やシリコーンゴムが使用されています。
高い絶縁性能と紫外線耐性が求められます。 - 接点部: 銅合金に銀メッキなどを施した導電性の高い素材が使われます。
主な規格
- JIS C 4607: 引外し形高圧交流負荷開閉器に関する規格。
- JEC-2310: 電気学会の交流遮断器規格(関連参考)。
- 定格電圧: 7.2kV(使用電圧6.6kV系統用)
- 定格電流: 200A または 400A が一般的です。
絶縁方式による種類の違い
PASを含む区分開閉器には、設置環境や用途に応じた種類があります。
-
PAS(気中開閉器): 空気で絶縁する最もスタンダードなタイプ。
価格が安く広く普及していますが、塩害(海の近く)などには弱いです。 -
PGS(ガス開閉器): 電柱に設置されますが、内部に六フッ化硫黄(SF6)
ガスを封入し絶縁・消弧性能を高めたもの。長寿命で塩害地域にも適しています。 -
UGS(地中線用ガス開閉器): 電柱がなく、地中ケーブルから受電する場合に
キャビネット(路上にある箱)内に設置されるタイプです。
内蔵される機能の違い(選定基準)
選定の際は以下の機能の有無を考慮します。
-
LA(避雷器)内蔵型: 雷のサージ電流を逃がすLAが内蔵されているか。
落雷による機器破損を防ぐために、現在はLA内蔵型が主流です。 -
VT(計器用変圧器)内蔵型: 取付柱の近くに低圧電源(100V)がない場合、
高圧からSOG制御装置用の100V電源を作り出す、VTを内蔵したものを選びます。
4. 主に使用されている場所
PASは、電力会社から高圧(6,600V)で受電する施設であれば、
原則として設置が必要です。具体的には以下のような施設・場所で使用されています。
- 工場・製造施設: 大型の機械設備を動かすため高圧受電が必須。最も一般的な設置先です。
- オフィスビル・商業施設: 大規模なビル、ショッピングモール、ホテルなど。
- 病院・公共施設: 大型の医療機器やサーバー設備を持つ施設。
- 学校・大学キャンパス: 複数の棟を持つ大型の教育施設。
-
マンション(高圧一括受電): 一定規模以上のマンションでは高圧一括受電方式を
採用することがあります。
設置される具体的な位置
電力会社の配電線(電柱)から施設の敷地へ電気を引き込む最初の電柱を「第一柱(引込柱)」
と呼びます。PASはこの第一柱の最上部に取り付けられ、
電力会社と需要家の責任分界点を示す位置に配置されます。ここから先(需要家側)
のケーブルが地上のキュービクルへと繋がっています。
5. メリット・デメリット
PAS(気中開閉器)は最も広く普及していますが、他の方式と比較した際の長所と短所が
あります。
メリット
-
低コスト: PGS(ガス開閉器)と比較して機器本体の価格が安く、
導入・更新のハードルが比較的低いです。 -
構造がシンプル: ガスの充填や密封構造が不要なため、構造が単純で信頼性が高いです。
また、保守点検もしやすく、部品交換にも対応しやすい利点があります。 -
汎用性が高い: 内陸部や標準的な環境では十分な性能を発揮し、
国内で最も多くの設置実績を持つ安心感があります。 -
環境負荷が低い: PGSに使用されるSF6ガス(強力な温室効果ガス)
を使用しないため、環境面での懸念がありません。
デメリット
-
塩害に弱い: 海岸線から約1km以内の塩害地域では、
筐体やブッシングの腐食が進みやすく、PGSの使用が推奨されます。 -
寿命がPGSより短い: 空気中に曝されるため部品の劣化が早く、
更新推奨時期はPGSより短い10〜15年が目安とされています。 -
消弧性能で劣る: SF6ガスと比較すると空気の消弧性能は低いため、
遮断容量に制限があります。 -
屋外環境の影響を受けやすい: 紫外線、風雨、汚損(PM等の付着)の影響を受けやすく、
定期的な外観点検と清掃が必要です。
6. コスト・価格の目安
PASの導入や更新にかかる費用は、機器本体と工事費、試験費などに分かれます。
現場の電柱の状況(交通誘導が必要か等)によって大きく変動します。
おおよその相場(機器+工事・更新の場合)
- PAS機器本体(LA内蔵型など): 20万〜35万円前後
- SOG制御装置・専用ケーブル: 5万〜10万円前後
- 交換工事費・高所作業車手配・試験調整費: 25万〜40万円前後
合計目安: 50万〜85万円程度
7. 更新周期と注意点・絶対にやってはいけない悪い使用方法
更新周期(推奨交換時期)
PASの更新推奨時期は、一般的におおむね10年〜15年とされています。
ただし設置環境(塩害・粉塵・直射日光の程度)によっては、
それよりも早い段階で劣化が進行する場合があります。年に1回の年次点検(停電点検)
で測定する絶縁抵抗値や動作試験の結果が、設置から数年で著しく悪化傾向にある場合は、
早期更新を検討すべきです。なお、SOG制御装置も同様に10〜15年での交換が推奨されています。
絶対にやってはいけない悪い使用方法
費用をケチって20年以上使用を続けるケースがあります。
また、古くなった制御ケーブルの被覆が劣化・断線しているのに
放置されるケースも極めて危険です。
悪い使用方法をするとどうなるか(末路)
経年劣化により開閉機構が錆付き、いざ施設内で事故が起きた際にPASが「自動で
切れない(トリップ不良)」事態に陥ります。結果、前述の「波及事故」が発生し、
数千戸から数万戸の大規模停電を引き起こします。信号機が止まって周囲で事故が起きたり、
近隣工場の生産ラインが停止した場合、電力会社や第三者から、
億単位の莫大な損害賠償を請求される事態に発展します。
高圧受電設備において「正常に動く最新のPASを維持する」ことは、
自社を守るための最優先事項です。
8. 関連する機器・材料の紹介
PASと一緒に設置されたり、比較されることが多い機器をご紹介します。
-
SOG制御装置:
PASとセットで設置される「頭脳」です。異常を検知してPASに切断の指示を出します。
▶ 詳細記事はこちら -
UGS(地中線用ガス開閉器):
PASの地中ケーブル版です。電柱ではなく地上の路上にある箱の中に配置されます。
▶ 詳細記事はこちら -
キュービクル(高圧受電設備):
PASを通ってきた高圧電気を、施設で使える100Vや200Vに変圧する変電設備です。
▶ 詳細記事はこちら
9. PASに関する多角的なQ&A(20連発)
電柱の一番上にくっついているバケツのようなものは何ですか?
あれがPASです。通常の電柱には円柱状のトランス(変圧器)がついていますが、
大規模な施設や工場へ高圧電気を引き込んでいる専用の電柱には、
施設の安全装置としてPASが設置されます。
紐(ロープ)が垂れ下がっているのを見ますが引っ張っていいですか?
絶対に引っ張らないでください。あの紐を通称「トジヒモ・キリヒモ」と呼び、
手動で電気を入れたり切ったりするためのものです。引っ張ると施設全体が突然停電してし
まいます。
施設が停電したとき、電力会社に電話すれば直してくれますか?
PASより施設側(2次側)の故障で停電した場合、施設側の責任となるため電力会社は直し
てくれません。契約している電気保安協会や電気工事店を呼んで、
対応を依頼する必要があります。
PASから「ジージー」といった音が聞こえますが危険ですか?
高圧電気が流れていると微小な振動音が鳴ることはありますが、
異常な異臭やバチバチという放電音がする場合は、経年劣化による絶縁不良の可能性があり
ますので、すぐに施設管理者へ危険を伝えてください。
台風の翌日、なぜか私たちの施設だけ停電しています。
木の枝が敷地内の電線に触れるなどして漏電を検知し、波及事故を防ぐために、
PASが作動して電気を遮断した可能性が高いです。安全が確認されるまで
SOG装置のリセット・再投入は、絶対に行ってはいけません。
PAS交換工事の際、SOG制御ケーブルの配線で気をつけることは?
Z1・Z2(地絡)とVa・Vc・Vb(トリップ)の結線間違いは致命的です。また、
コネクタ部の防水テーピングを怠ると、雨水が毛細管現象でケーブル内部を伝ってSOG箱に
浸水するため、自己融着テープでの防水処理は厳重に行います。
VT内蔵タイプのPASをつける場合の配線上の注意点は?
VT内蔵タイプは制御用電源とトリップ電源を、PAS内部の1次側から取るため、
P1・P2等の電源線の極性と相順を間違えないでください。
短絡させると一瞬でVTが焼損します。
高所作業車でのPASの吊り上げで注意すべき点は?
PAS本体は約40〜60kgあります。玉掛けは必ず指定の吊り環を使用し、
ブッシング(碍子部分)にスリングが当たらないようにします。
ブッシングに少しでもヒビが入ると使い物にならなくなります。
方向性PASと無方向性PAS、施工時の違いは?
方向性PASは地絡の電流方向を検知するため、負荷側と
電源側の接続方向(K・L端子等の向き)が決まっています。
これを逆接続すると正常に事故を判断できなくなりますので、図面との確認が必須です。
PAS接地工事でのD種接地の取り方は?
PAS外箱の接地(D種接地)と、SOG制御盤の接地は別個確実に取り、
規定の接地抵抗値(100Ω以下)を出し測定記録を残すこと。
これが不十分だと雷サージ等での機器破壊や、誤動作の直接の原因になります。
PAS交換工事に関わる手続き(申請)には何がありますか?
作業時は電力会社の配電線を一時的に停電させて切り離す(借室停電や開閉器操作)
必要があるため、1〜2ヶ月前には管轄の電力会社に対して、
停電協議の申請を行う必要があります。
道路上での作業になりますが手配事項は?
道路使用許可の取得と、高所作業車を安全に駐停車させるための交通誘導警備員の配置が
必須です。特にバス通りや幹線道路の場合は、昼間を避けて夜間工事への変更を
求められることがあります。
「波及事故防止協定」とは何ですか?
電力会社との受電契約時に結ぶもので、需要家側の異常を配電線に波及させないよう、
保護協調(SOGの動作時分など)を適切に整定し維持する義務があります。
施工管理者はこの整定表に従って、試験技術者に正確なテストをさせます。
ケーブルの耐圧試験はいつ行うのが正しいですか?
PAS設置後で、かつ電力会社と接続する前に行います。PASを「入」
状態にして一括で耐圧を加える場合と、「切」状態で極間に耐圧を加える試験の両方を、
試験技術者に実施してもらいます。
方向性SOGリレーが必要になる現場の条件は?
構内に長いケーブル敷地の区間を持つ場合、もらい事故(他所の地絡事故時の充電電流に
よる誤動作)を防ぐために方向性SOGを選定する必要があります。
設計図書と現場のケーブル系統の突合確認が必須です。
年次点検でPASの何を一番確認すべきですか?
SOG動作試験(過電流・地絡)、連動試験による確実なトリップ(開路)、
および絶縁抵抗測定です。また、外観のサビ、ブッシングの亀裂、
外にぶら下がる操作紐の劣化具合など、日常的な「目視確認」も非常に重要です。
更新の稟議を通すため、オーナーにPASの重要性をどう説明すべき?
「これを交換しないと、万が一の漏電時に地域一帯を停電させ、
数千万円単位の損害賠償を請求されるリスクがある」と、
波及事故の法的・金銭的リスクを強調するのが、もっとも経営者にとって効果的です。
PASが予期せずトリップ(動作)した際の初動は?
絶対にいきなり再投入してはいけません。SOG箱の表示器を見て「地絡」か「短絡」
かを確認後、構内のキュービクル等で原因箇所の特定とメガ(絶縁)測定を行い、
異常を完全に切り離して安全を確保してから再投入します。
長期間操作していないPASの「入切」操作時の恐怖感への対策は?
錆びつき等による操作機構の破損や、接点の不完全接触アークを避けるため、
操作紐は手元ではなく引き落とし角度を垂直に保ち、一気に確実な力で引き下ろす(または
引き上げる)ことがコツです。
PASとキュービクル内のVCB(真空遮断器)、どちらが先に切れるべき?
これを「保護協調」と呼びます。通常は構内の異常ならキュービクル内のVCB側のリレーが、
先に動作するよう時限設定を短くし、PASはバックアップ(VCBが切れなかった時)
として、やや遅れて動作するように整定します。