防煙垂れ壁とは?
天井から垂れ下がって煙の拡散を食い止める見えない防災壁
【超解説】とても簡単に言うと何か?
火事のときに煙が横に広がるのを防ぐために、天井からぶら下がっている
ガラスや不燃材のパネルのことです。普段は透明で気付きにくいですが、
煙をせき止めて逃げる時間を確保する大切な防災設備です。
1. 基本概要
そもそも何か
防煙垂れ壁(ぼうえんたれかべ)とは、火災時に発生する煙が天井面を伝って
水平方向に拡散するのを防ぐため、天井から下方に突き出して設置される
不燃性の壁(垂れ壁)です。建築基準法施行令第126条の2に基づき、防煙区画を形成するために
設置が義務付けられています。
防煙垂れ壁は排煙設備とセットで機能する防災設備です。排煙設備が煙を建物外に排出する
役割を担うのに対し、防煙垂れ壁は煙の拡散範囲を限定して排煙効率を高める役割を担います。
なぜ必要なのか
火災で最も危険なのは炎ではなく煙です。高温の煙は天井面を秒速1〜3mの速さで水平に広がり、
短時間で広範囲に充満します。防煙垂れ壁がなければフロア全体に煙が広がり、
避難経路が瞬時に煙に覆われます。
防煙垂れ壁で区画を分けることで、煙の到達を遅らせて避難時間を確保するとともに、
排煙口の近くに煙を留めて効率的に排煙できるようにします。500m²以内ごとに防煙区画を
形成するのが基本的な考え方です。
2. 構造や原理
構造と素材
防煙垂れ壁は不燃材料で作られ、天井面から下方に500mm以上垂れ下がるように設置されます。
この500mmという寸法は煙の層(煙層)が天井面から下方に蓄積する特性に基づいた
建築基準法の規定です。
固定式と可動式の2種類があります。
-
固定式:
常時天井から垂れ下がった状態で
設置されるタイプ。
ガラス製パネルが最も一般的で、
透明なため空間の開放感を
損ないません。 -
可動式(パネル型・シート型):
火災時に感知器と連動して
天井内から自動的に降下します。
普段は天井内に収納されており、
意匠を損なわないのが利点です。
防煙区画の原理
火災の煙は高温のため上昇し、天井面に到達すると横方向に広がります。防煙垂れ壁は
この横方向の流れをせき止め、煙を一定の区画内に留めます。
防煙区画内に設置された排煙口が作動することで、溜まった煙を集中的に排出します。
垂れ壁がなければ煙が分散して排煙口から効率的に排出できなくなります。
3. 素材・形状・規格
外観形状と素材
防煙垂れ壁に使用される主な素材は以下のとおりです。
-
耐熱強化ガラス:
厚さ6〜8mmの透明ガラス。
意匠性に優れ、商業施設・
オフィスビルで最も広く使用されます。
透明なため空間の見通しを妨げません。 -
不燃シート:
ガラス繊維やシリカクロスで
作られた可動式用の不燃シート。
軽量で収納性に優れ、
大スパンにも対応できます。 -
ケイ酸カルシウム板:
不燃性の無機質ボード。
コストが安く、下地に使用
されることが多いです。 -
鋼板・ステンレス板:
厨房やバックヤードなど
意匠性が求められない場所で
使用されます。
種類や関連規格
関連する法規と規格は以下のとおりです。
-
建築基準法施行令第126条の2:
排煙設備の設置義務と
防煙区画の規定。500m²以内ごとに
防煙壁で区画することを規定。 -
告示第1436号:
排煙設備の免除要件。
防煙垂れ壁の仕様として
天井面から500mm以上の
垂下を規定。 -
不燃材料の認定:
防煙垂れ壁に使用する材料は
国土交通大臣認定の
不燃材料であることが必要です。
4. 主に使用されている場所
使用される施設
-
商業施設・ショッピングモール:
広大なフロアを防煙区画に
分割するため、ガラス製の
固定式垂れ壁が数多く設置されます。
天井から透明なガラスが
下がっているのを見たことが
ある方も多いでしょう。 -
オフィスビル:
廊下と執務エリアの境界、
エレベーターホール周辺に
設置されます。 -
病院:
入院患者の避難が難しいため、
防煙区画を細かく分けて
煙の到達を遅らせる設計が
重要視されます。 -
劇場・映画館:
客席とロビー、舞台と客席の
境界に設置されます。
可動式が多く採用されます。 -
駅舎・地下街:
地下空間では煙の拡散が
特に危険なため、
防煙区画が厳格に設けられます。
具体的な設置位置
防煙垂れ壁は天井面から500mm以上垂れ下がるように天井または梁の下面に取り付けられます。
設置位置は防煙区画の境界線に沿って決まります。
具体的には廊下と居室の境界、エレベーターホールの出入口、エスカレーター周辺、
吹き抜け(アトリウム)の周囲がよくある設置位置です。防火戸と組み合わせて
使用されることも多いです。
5. メリット・デメリット
メリット(長所)
-
避難時間の確保:
煙の拡散を遅らせ、
防煙区画外にいる人が
安全に避難するための
時間を稼ぎます。 -
排煙効率の向上:
煙を特定の区画内に留めることで、
排煙口からの排煙効率が
大幅に向上します。 -
透明ガラスによる意匠性:
透明ガラス製の固定式なら
空間の開放感を維持しながら
防煙機能を果たせます。 -
可動式は普段見えない:
可動式垂れ壁は天井内に
収納されるため、普段の意匠を
全く損なわず、火災時のみ降下します。
デメリット(短所・弱点)
-
ガラス製は破損リスクがある:
地震時や物がぶつかった際に
ガラスが割れる可能性があります。
耐熱強化ガラスでも
成長破壊(自然破壊)のリスクが
完全にはゼロではありません。 -
可動式は機械的故障のリスク:
感知器や連動装置の不具合で
降下しない可能性があります。
定期点検と作動確認が不可欠です。 -
天井高の減少:
500mm以上垂れ下がるため、
天井高が低い建物では
通行時の圧迫感が生じます。 -
レイアウト変更時の制約:
防煙区画の位置は排煙計画と
連動するため、テナント変更時に
垂れ壁の移設が困難な場合があります。
6. コスト・価格の目安
導入や更新にかかる費用
防煙垂れ壁のコストは素材・方式・長さによって大きく変動します。
固定式ガラスが最もコスト効率が良く、可動式はメカニズムが複雑なぶん高額になります。
おおよその相場(1mあたり)
-
固定式ガラス垂れ壁:
2万〜5万円/m程度(材工共) -
可動式シート垂れ壁:
8万〜15万円/m程度(材工共) -
可動式パネル垂れ壁:
10万〜20万円/m程度(材工共)
一般的な商業施設の1フロア:50万〜200万円程度
7. 更新周期と注意点・絶対にやってはいけない悪い使用方法
更新周期(推奨交換時期)
固定式ガラス垂れ壁はガラス自体の劣化はほぼなく、取付金具やシーリング材の劣化が
更新の判断基準になります。20〜30年が一般的な目安です。
可動式垂れ壁は機構部品(ワイヤー、巻取り装置、連動制御盤)の経年劣化があるため、
15〜20年での更新が推奨です。消防法に基づく定期点検で作動不良が発見された場合は
即時の修繕または交換が必要です。
絶対にやってはいけない悪い使用方法
商業施設でセール時期などに
ガラス製の防煙垂れ壁に
ポスターや広告を貼り付ける
ケースがありますが、
これは絶対に禁止です。
垂れ壁としての防煙機能に
影響はなくても、消防検査で
指摘を受ける行為です。
可動式の場合は降下の妨げとなり
致命的な問題を引き起こします。
悪い使用方法をするとどうなるか(末路)
可動式垂れ壁を物品で塞いだり固定したりすると、火災時に降下できず
防煙区画が形成されません。煙がフロア全体に拡散し、排煙設備も効果を発揮できず
避難者が煙に巻かれる最悪の事態を招きます。
消防法違反が発覚した場合、消防署から改善命令が出されます。それでも改善しない場合は
使用停止命令が下され、施設の営業が停止に追い込まれます。火災で死傷者が出た場合は
管理者の刑事責任が問われます。
8. 関連機器・材料の紹介
防煙垂れ壁と組み合わせて機能する防災関連設備を紹介します。
-
排煙設備:
防煙区画内に溜まった煙を
建物外に排出するシステム。
防煙垂れ壁と排煙設備は
一体で防煙計画を構成します。
▶ 詳細記事はこちら -
防火ダンパー(FD・SFD):
ダクトを通じて煙が
他の防煙区画に拡散するのを
防ぐための遮断装置。
排煙ダクトにはSFDが設置されます。
▶ 詳細記事はこちら -
防火戸:
火災時に閉鎖して
延焼と煙の拡散を防ぐ扉。
防煙垂れ壁と合わせて
防煙区画の構成要素となります。
▶ 詳細記事はこちら
9. 多角的なQ&A(20連発)
ショッピングモールの天井にある透明なガラスは何ですか?
防煙垂れ壁です。火事のときに煙が横に広がるのを防ぐために設置されています。
透明なので普段は目立ちませんが、いざというとき避難時間を確保する大切な設備です。
防煙垂れ壁にぶつかったり割れたりしませんか?
天井から500mm以上の高さに設置されているため、通常の歩行でぶつかることは
ありません。耐熱強化ガラスは通常のガラスより割れにくいですが、
万一割れた場合は粒状に砕けるため鋭い破片は生じにくくなっています。
地震で防煙垂れ壁のガラスが落ちてくることはありますか?
大地震では可能性がゼロではありませんが、飛散防止フィルムが
貼られた製品や、ガラスに代わる不燃シート製への移行も進んでいます。地震後は
管理者が目視点検を行います。
火災時に天井から何かが降りてきたのを見ましたが?
可動式の防煙垂れ壁です。火災感知器と連動して天井から自動的に降下し、
煙の拡散を防ぎます。避難の妨げになるものではないのでパニックにならず
落ち着いて避難してください。
防煙垂れ壁はすべての建物にありますか?
排煙設備が義務化されている建物(延べ面積500m²超など)に設置されます。小規模な住宅や
店舗には基本的にありませんが、大きな商業施設やオフィスビルには
ほぼ確実に設置されています。
ガラス製垂れ壁の取付で注意する点は?
ガラスの自重を支える取付金具(チャンネル材)の天井への固定強度が最重要です。
天井下地の補強が必要な場合は構造体まで吊りボルトで支持してください。
可動式垂れ壁の施工で難しい点は?
天井裏の巻取りボックスのスペース確保が最も難しいです。空調ダクトや配管との干渉を
避けながら収納スペースを確保する必要があります。事前の天井裏調査が不可欠です。
ガラスの搬入はどうやって行いますか?
大判ガラス(幅2m以上のもの)は搬入経路の確認が最重要です。
エレベーターに入らない場合は階段搬入やクレーン揚重を検討します。養生と破損防止に
細心の注意を払ってください。
既存ビルの改修で垂れ壁を追加する際の注意は?
既存の天井下地の耐荷重を確認してください。天井がLGS下地の場合、
ガラスの重量に耐えられるか構造計算が必要です。下地補強工事が追加になる
ケースが多いです。
防煙垂れ壁のシーリングはどの程度の気密性が必要ですか?
完全な気密性は要求されませんが、垂れ壁と天井面の隙間から煙が漏れないよう、
不燃性のシーリング材で隙間を塞ぎます。特にT字交差部やコーナー部の処理が重要です。
防煙区画の面積制限はどう決まりますか?
建築基準法施行令第126条の3では防煙壁で区画された部分の
床面積を500m²以内と規定しています。ただし排煙設備の能力に応じて
緩和される場合もあります。消防との事前協議が重要です。
固定式と可動式の使い分けの判断基準は?
通路や廊下など常時通行する場所は通行を妨げないよう天井の高い位置に固定式を設置。
大スパンの開放空間や意匠上垂れ壁を見せたくない場所では可動式を採用します。
コストは可動式が2〜4倍高価です。
防煙垂れ壁と排煙計算はどう連動していますか?
排煙計算は防煙区画ごとに必要排煙量を算出します。区画面積が大きいほど
排煙量が増えるため、垂れ壁で区画を細かく分けると各排煙口の必要能力を
小さくできるメリットがあります。
テナント変更時に垂れ壁の移設は可能ですか?
技術的には可能ですが、防煙区画と排煙計画の変更を伴うため確認申請の
変更届が必要になる場合があります。所轄消防署との事前協議を行ってください。
地震対策として飛散防止措置は必須ですか?
法令上の義務ではありませんが、特定天井と同様の安全対策として飛散防止フィルムの貼付が
推奨されています。不特定多数が利用する施設ではガラスから不燃シートへの
切替を検討してください。
防煙垂れ壁の点検はどのように行いますか?
固定式はガラスの破損・ひび割れ、取付金具の緩み、シーリングの劣化を目視確認します。
可動式は年1回以上の降下試験で正常に作動するか確認し、記録を残してください。
可動式垂れ壁の降下試験の方法は?
感知器の連動試験として試験ボタンで手動起動し、シートが所定の位置まで
降下するか確認します。降下速度、停止位置、巻き上げ復旧も確認します。
消防設備点検の一環で実施します。
ガラスにひび割れが見つかった場合はどうしますか?
ひび割れたガラスは強度が大幅に低下しているため早急に交換が必要です。
交換までの応急措置として飛散防止フィルムを貼付し、周囲に注意喚起の表示を
設置してください。
消防検査で指摘されやすい項目は?
「垂れ壁の下端から500mm以上の垂下寸法が確保されていない」「可動式が作動しない」
「垂れ壁の前に物品が置かれている」が三大指摘項目です。特に物品による閉塞は
テナントへの周知が重要です。
防煙垂れ壁のガラス清掃は必要ですか?
透明度の維持と利用者の衝突防止のために定期的な清掃を推奨します。
両面からの清掃が必要ですが、片面は天井裏側となるため高所作業車やローリング
タワーが必要な場合があります。